
ガソリンを入れるタイミングは人それぞれです。警告灯が点くまで粘る人もいれば、針が半分を切ったら入れる人もいます。ふだんなら好みの問題ですが、地震や台風、大雪のあとでは話が変わります。ガソリンスタンドが止まったり、給油に長い列ができたりすると、「いま何リットル残っているか」がそのまま、移動できる距離と車の中で過ごせる時間になるからです。国や石油業界が呼びかけている「満タン運動」の中身、ドライバーが実際に給油しているタイミングの調査、過去の災害で起きたことをもとに、災害に備えた給油の考え方を整理します。
「満タン派」か「半分派」か、は対立しない
給油の話になると、よく「満タン派」と「半分派」の比べ合いになります。ただ、災害への備えという目で見ると、この二つはどちらか一方を選ぶものではありません。
半分派の「半分」は、給油するタイミングの話です。満タン派の「満タン」は、入れる量の話です。この二つは組み合わせることができます。
針が半分を切ったら、満タンまで入れる。そうすれば、タンクにはいつも半分以上のガソリンが残っていることになります。
災害はいつ起きるか選べません。いつ起きても「半分より下にはなっていない」状態をつくっておく、というのが、この記事でいう「半分ルール」の考え方です。もちろん、毎回必ずそうしなければいけないというものではなく、生活に合わせて調整してよい目安です(後半で、使い方別に考えます)。
国と石油業界が呼びかける「満タン&灯油プラス1缶運動」
災害に備えた給油については、公的な呼びかけがあります。全国石油商業組合連合会と各都道府県の石油組合が進めている「満タン&灯油プラス1缶運動」で、内閣府(防災担当)や資源エネルギー庁なども後押ししています。中身はシンプルで、次の二つです。
- ふだんから車の燃料を満タンにしておく
- 暖房用の灯油を、いつもより1缶多く備えておく
内閣府の防災広報誌では、この運動について、ガソリンを満タンにしておけばエアコンをつけ、スマートフォンを充電し、ラジオを聞いた状態で約2日間過ごせる、灯油1缶(18リットル)があれば停電中でも石油ストーブで約3日間暖をとれる、と紹介しています。埼玉県のページでは、満タンなら400km程度の移動ができる、という目安も示されています。
なお「プラス1缶」は家庭の暖房用の灯油の話で、ガソリンを家に余分に置いておくという意味ではありません。車の側の備えは、あくまで「タンクの中身」です。
実際は、どのくらい減ったら入れている?
では、ドライバーはふだんどのタイミングで給油しているのでしょうか。JAF Mate総研が2022年8月にまとめた調査では、全国で多かった答えは次の順番でした。
| 順位 | 給油するタイミング |
|---|---|
| 1位 | 燃料が4分の3減ったら |
| 2位 | 半分になったら |
| 3位 | 3分の2減ったら |
| 4位 | 燃料警告灯が点いたら |
※JAF Mate総研「給油をするタイミングは?」(2022年9月3日公開)より。
同じ調査では、ドライバーの7割超が「燃料が半分から4分の3まで減った段階」で給油していました。つまり多くの人は、警告灯が点くほどギリギリまでは待たないものの、「半分」より下がってから入れている、ということになります。
面白いのは地域による違いです。関東甲信越から西では「4分の3減ったら」が最も多かったのに対し、北海道から東北(主に太平洋側)では「半分になったら」が1位でした。宮城県では「半分で給油」が4割強と特に多く、調査では東日本大震災の経験が影響していると見ています。
半分ルールは、机の上の理屈ではなく、実際に災害を経験した地域で根づいている習慣でもあります。
なぜ「災害が起きてから」ではだめなのか
「いざとなったら、そのとき入れればいい」と考える人もいるかもしれません。ところが、過去の災害では、まさにその「そのとき」に給油が難しくなっています。
2024年1月の能登半島地震では、ガソリンが手に入らなくなるのではという不安から、給油を待つ車の列ができました。内閣府の防災広報誌によると、給油のためにタンクローリーの後をつけて行列ができるような動きも見られ、こうした渋滞は、復旧に必要な緊急車両の通行や給油にも悪い影響を与えたといいます。2011年の東日本大震災でも、被災地のガソリンスタンドには長い行列ができました。
ここには、ちょっとした矛盾があります。一人ひとりが「なくなる前に入れておこう」と動くのは自然なことです。けれど、災害のあとに大勢が同時にそう動くと、その行列が、本当に車を必要としている人や車の邪魔になってしまいます。
満タンは、災害のあとに慌てて手に入れるものではなく、ふだんの日のうちにしか用意できないものです。
「満タン&灯油プラス1缶運動」がわざわざ「ふだんから」と呼びかけているのは、このためです。半分ルールで給油しておけば、災害の直後に列に並ぶ必要そのものが小さくなります。
「半分のほうが軽くて燃費がいい」のでは?
半分派の理由としてよく挙がるのが、「ガソリンが少ないほうが車が軽くなって燃費がいい」という考えです。これは理屈としては間違っていません。ただ、どのくらいの差なのかを数字にすると、印象が変わります。
ガソリンは1リットルあたりおよそ0.75kgとされています。タンクが40リットルの車で、満タンと半分の差は20リットル、重さにして約15kgです。車両重量1,200kgの車なら、車の重さの約1.25%にあたります。大人がもう一人乗る重さ(数十kg)と比べても、だいぶ小さい差です。
そのうえ、いつも半分だけ入れる運用だと、満タン運用に比べて給油に行く回数が増えます。スタンドまでの寄り道が増えれば、そのぶんの燃料と時間もかかります。燃費のために半分だけ入れる効果は、あったとしてもわずかで、ほかの条件で簡単に打ち消されてしまう程度だと考えたほうがよさそうです。
燃費が気になるなら、給油の量より、急発進・急ブレーキを避ける、不要な荷物を降ろすといった運転や積み方の見直しのほうに目を向けたほうがよい、という指摘もあります(くるまのニュースの記事より)。
半分のガソリンで、どこまで行けて、何時間過ごせる?
「半分残っている」と言われても、それがどれくらいの余裕なのかは実感しにくいものです。ここでは、ある仮定を置いて、残量ごとの目安を計算してみます。
| タンクの残り | 残量(40L車の場合) | 走れる距離の目安(15km/L) | アイドリングだけで過ごせる時間の目安(エアコンOFF) |
|---|---|---|---|
| 4分の1 | 10L | 約150km | 約13時間 |
| 半分 | 20L | 約300km | 約26時間 |
| 満タン | 40L | 約600km | 約51時間 |
※タンク容量40リットル、実際の燃費15km/L、アイドリング時の燃料消費を「10分間で約130cc(エアコンOFF・ニュートラルレンジ)」とした、仮定に基づく計算例です。130ccは、エコドライブ普及連絡会の「エコドライブ10のすすめ」(環境省などが紹介)で示されている目安で、1時間あたりに直すと約0.78リットルです。実際の数字は、車種、エンジンの大きさ、ハイブリッドかどうか、エアコンや暖房の使い方、外気温などで大きく変わります。冷暖房を使えば、過ごせる時間はこれより短くなります。
この計算例でいえば、4分の1まで減ってから入れる人と、半分で入れる人とでは、災害の瞬間にタンクに残っている量の「最低ライン」が倍違います。距離にして150kmと300km、時間にして半日と丸1日の違いです。
もう一つ知っておきたいのは、燃料計の針は「何リットル」を正確に指すものではない、ということです。ガソリンスタンドのスタッフからも、メーターは正確ではないので警告灯が点く前くらいに入れたほうがよい、という声があります。針が半分でも、実際に残っている量は車や針の動き方によって前後します。半分ルールは、「計算どおりに使い切る」ためではなく、「読み違えても困らない余白」をつくるためのものと考えるとよいでしょう。
車の中で過ごすときに、ガソリンより先に気をつけたいこと
ガソリンが残っていれば、車は停電中でもエアコンやスマートフォンの充電に使える、心強い場所になります。ただし、エンジンをかけて車内で過ごすときには、燃料の残りよりも先に気をつけたいことがあります。
その一つが、雪でマフラーがふさがれたときの排気ガスです。JAFが、2020年12月の関越道の大雪による立ち往生を想定して行ったテストでは、ドアハンドルの高さまで雪に埋め、マフラーが完全に隠れた状態でガソリン車のエンジンをかけ、エアコンを内気循環にしておいたところ、車内の一酸化炭素濃度は開始から1分24秒で警報の目安となる50ppmに達しました。この結果からJAFは、ガソリン車では排ガスの流入に注意し、エンジンを止める、換気する、マフラーまわりの雪かきをすることが欠かせないとまとめています。
燃料をたくさん残しておくことは、「ずっとエンジンをかけ続けていい」という意味ではありません。とくに雪の中では、ガソリンの残量にかかわらず、マフラーのまわりを見ることが最優先です。車中泊で避難するときの体の負担や注意点は、地震で車中泊避難になったら気をつけたいことでまとめています。
停電しても給油できる「住民拠点SS」を一つ知っておく
もう一つの備えが、近くの「住民拠点サービスステーション(住民拠点SS)」を知っておくことです。自家発電の設備を備え、停電のときでも地域の住民に給油を続けられるガソリンスタンドで、資源エネルギー庁が全国で整備を進めています。全国に約3万か所あるガソリンスタンドのうち、およそ1万4,000か所がこの住民拠点SSになっています。
どのスタンドが住民拠点SSなのかは、資源エネルギー庁のウェブサイトなどで調べられます。ふだん使うスタンドがそうなのか、家や職場の近くにどこがあるのかを、一度確認しておくと安心です。ただし、災害時に必ず燃料が十分にあるとは限らないので、「タンクの中身」の代わりではなく、それに加える備えと考えておきましょう。
使い方別:半分ルールの取り入れ方
半分ルールは、誰にとっても同じ重さの習慣ではありません。車の使い方によって、取り入れ方を変えてよいものです。
週末に近所を走るくらいの人
走る距離が短いので、半分を切るまでに時間がかかり、給油の回数もあまり増えません。半分ルールの負担が一番小さいタイプです。そのぶん、「気づいたら何週間も針が低いまま」になりやすいので、月に一度くらいは燃料計を見る習慣をつけておくと安心です。
毎日、通勤などで長い距離を走る人
半分ルールをきっちり守ると、給油の回数が増えて手間に感じるかもしれません。通勤の途中など、ついでに寄れるスタンドを一つ決めておくと続けやすくなります。走る距離が長い人ほど、災害の瞬間に「通勤の帰り道で減っていた」ということも起きやすいので、半分ルールの意味は大きくなります。
雪の多い地域・寒い地域に住む人
大雪による立ち往生や停電のときに、車で暖をとる場面が考えられる地域です。北海道から東北で半分派が多かったのも、うなずけます。冬のあいだは半分ルールを特に意識し、あわせてマフラーまわりの雪をどう払うか(スコップを積んでおくなど)も考えておくと、残っているガソリンを安全に使えます。
ハイブリッド車・電気自動車に乗る人
ハイブリッド車もガソリンで動く以上、考え方はガソリン車と同じです。燃費がいいぶん、同じ「半分」でも走れる距離や過ごせる時間は長くなりやすい、という強みがあります。電気自動車の場合は、ガソリンの代わりに充電の残量で同じことを考えることになります。停電が起きると充電そのものができなくなることもあるので、「残りが少なくなってから急いで充電する」より、ふだんから余裕を持たせておく発想は同じです。
今日からできること
- 次に給油するとき、針がどこまで下がっていたかを一度見てみる(自分がふだん何分の1で入れているかを知る)
- 「半分を切ったら、次にスタンドの前を通ったときに満タンにする」くらいの、ゆるい決め方から始める
- 家や職場の近くの住民拠点SSを一つ調べておく
- 冬が近い地域なら、車にスコップなど雪をどけられる道具を積んでおく
台風や大雨の前の車の置き場所については、台風・大雨の前に、車はどこに停めておく?でまとめています。
ガソリンスタンドが当たり前に開いている日には、半分も満タンも大差ないように見えます。
その差が見えるのは、スタンドが閉まった日です。そしてその日の残量は、それより前のふだんの日にしか決められません。
参考にした情報
- 内閣府 防災情報のページ 広報誌『ぼうさい』(令和6年度)掲載記事(満タン運動の紹介) bousai.go.jp
- 埼玉県「災害時の燃料対策に!『住民拠点SS』の確認と『満タン&灯油プラス1缶運動』をお願いします。」 pref.saitama.lg.jp
- JAF Mate総研「給油をするタイミングは?|みんなの本音を大調査!」(2022年9月3日) jafmate.jp
- JAF Mate「大雪で立ち往生! 車が雪に埋もれたときの車内環境はどう変わる?」 jafmate.jp
- 環境省「エコドライブ10のすすめ」 env.go.jp
- 福島県「エコドライブ10のすすめ」紹介ページ pref.fukushima.lg.jp
- 北海道 経済部「災害時に給油可能なSS(住民拠点SS等)」の案内ページ pref.hokkaido.lg.jp
- くるまのニュース「ガソリン節約したい…『満タン』『半分で給油』どちらがコスパ最強!?」(2025年6月1日) kuruma-news.jp

