
「停電しても、ハイブリッド車があれば家の電気をまかなえるって聞いたけど、本当?」——台風や大雪で停電が長引いたとき、車を「動く電源」として使う人が増えています。ただ、同じ車でも、使える電気の量は乗っている車の種類と装備で大きく違います。何十時間も電気ストーブを動かせる車もあれば、スマホの充電くらいが精一杯の車もあります。停電の夜に慌てないために、自分の車で何ができるのかを、メーカーが公表している数字から整理します。
まず自分の車がどれに当てはまるか
| 車の種類・装備 | 取り出せる電気 | 停電のときにできること(目安) |
|---|---|---|
| ハイブリッド車・PHEVで、100V・1500Wのコンセント付き | 家庭用と同じ100V、合計1500Wまで | 電気ストーブ、炊飯器、電気ポットなども使える。ガソリンがあれば数日単位 |
| EV(電気自動車) | 車内コンセントや外部給電の器具、V2H機器を通して100V | 電池の容量しだい。V2H機器があれば家全体に給電できる場合も |
| コンセントのないハイブリッド車・ガソリン車 | アクセサリーソケット(12V)やUSB。トヨタの取扱説明書では120W未満 | スマホやモバイルバッテリーの充電、小さな照明程度 |
同じ「車から電気を取る」でも、1500Wと120W未満では10倍以上の差があります。まず車内に家庭用と同じ形のコンセントがあるかを確かめてみてください。トヨタによると、ハイブリッド車やPHEVでも、グレードやオプションによって付いている車と付いていない車があります。
コンセント付きのハイブリッド車なら、満タンで「約5日」
トヨタは、100V・1500Wのコンセントを備えたハイブリッド車について、具体的な数字を出しています。プリウス(2.0L)がガソリン満タンの状態で外に取り出せる電気は約48kWh。消費電力400Wで使い続けた場合、約5.0日電気を使えるとしています。
仕組みはこうです。走行用の電池から電気を出し、電池の残りが減ると、エンジンが自動でかかって発電し、また電池にためる。つまり、ガソリンが燃料の「発電機」として働くわけです。トヨタは、走る機能を止めたまま給電できる「非常時給電システム」というモードを用意しており、このモードでは車は動かせない代わりに、停車したまま電気を使い続けられます(対応していない車種もあります)。
ここで、トヨタが公表している「約48kWh」をもとに、家電ごとにどれくらい使えるかを並べてみます。
| 使う家電(消費電力) | それだけを使い続けた場合 |
|---|---|
| スマートフォン(10W) | フル充電 約4,800回 |
| 扇風機(30W) | 約1,600時間(約66日) |
| ノートパソコン(80W) | フル充電 約600回 |
| いくつかの家電を合わせて400W | 約120時間(約5日) |
| 電気ストーブ(750W) | 約64時間(約2.7日) |
| IH炊飯器(1,200W) | 約40時間 |
| 上限いっぱいの1,500W | 約32時間(約1.3日) |
※スマートフォン・ノートパソコン・400W・電気ストーブ・IH炊飯器はトヨタ「クルマde給電」ページの試算(プリウス2.0L、ガソリン満タン、外部に供給できる電力量を約48kWhと仮定)。扇風機と1,500Wの行は、同じ48kWhをもとに編集部が計算した例(48,000÷30=1,600時間、48,000÷1,500=32時間)です。消費電力は製品によって違い、実際の時間は車の状態や気温で変わります。
「5日分」と「1日ちょっと」、どちらが本当?
「満タンで5日分って聞いたのに、上の表だと1日ちょっとで終わる行もある。結局どっちなの?」と思った人もいるかもしれません。
どちらも正しい数字です。車が出せる電気の「量」は満タンでほぼ決まっていて、それをどれだけの勢いで使うかで日数が変わります。400Wずつ使えば5日、1,500Wずつ使えば1日余り。同じ48kWhを、細く長く使うか、太く短く使うかの違いです。
トヨタの試算では、一般家庭の1日あたりの電気の使用量を10kWhと置いています。この考え方だと、ふだんどおりに家じゅうの電気を使えば48÷10で5日弱。ところが停電中に本当に必要なのは、冷蔵庫、照明、スマホの充電、季節によっては暖房器具くらいです。
停電中の車の電気は、「ふだんの暮らしを続ける」ためではなく、「必要なものだけをつなぐ」と考えると長持ちします。
1500Wの壁は、合計で考える
コンセントが2つある車でも、使える電気は合計で1500Wまでです。トヨタは、電気ストーブ(750W)とコーヒーメーカー(650W)とノートパソコン(80W)なら合計1,480Wで同時に使える、という例を出しています。逆に、IH炊飯器(1,200W)と電気ストーブを同時に動かすと1,950Wとなり、保護機能が働いて給電が止まります。
もう1つの落とし穴が、スイッチを入れた瞬間です。トヨタによると、電気製品の中には、動き始めるときにふだんの1.1〜8倍の電力を必要とするものがあり、合計が1500Wを超えると給電が止まることがあります。モーターを使う家電などをつなぐときは、1つずつ順番にスイッチを入れるのが安全です。
EVは電池の大きさがそのまま「日数」になる
電気自動車(EV)には、ガソリンで発電する仕組みがありません。その代わり、走るための大きな電池をそのまま家庭の蓄電池のように使えます。使える日数は、ほぼ電池の容量で決まります。
日産は、初代リーフ(電池の容量24kWh)を発表した当時、満充電の電池で、平均的な家庭(1日約10kWhと想定)の約2日分の電気をまかなえると説明していました。現在のリーフについては、家への給電は、取り出せる電力量が最大で電池の90%で、接続する機器や変換効率で変わる目安だとしています。
| 電池の容量(仮定) | 使える量(90%と仮定) | 1日10kWh使う場合 | 400Wで使い続ける場合 |
|---|---|---|---|
| 20kWh(軽EVクラス) | 18kWh | 約1.8日 | 約45時間 |
| 40kWh | 36kWh | 約3.6日 | 約90時間 |
| 60kWh | 54kWh | 約5.4日 | 約135時間 |
※電池容量・使える割合・使い方をすべて仮定した単純な計算例です(例:20×0.9=18kWh、18÷10=1.8日、18,000÷400=45時間)。満充電で停電を迎えるとは限らず、実際には給電器具の効率、気温、残しておきたい走行分などで少なくなります。
注意したいのは、停電の前にどれだけ充電してあるかです。ガソリン車やハイブリッド車の燃料を「半分になったら入れる」と同じで、台風の接近が分かっている日は、EVも早めに充電しておくと、その分だけ使える日数が増えます。停電が始まってからでは、家でも充電はできません。
家全体に電気を送りたい場合は、車とは別に「V2H」と呼ばれる機器を家に設置する必要があります。日産も、V2Hを行うには別売の機器が必要だとしています。V2Hがなくても、車内のコンセントや、車につなぐ給電用のコネクターがあれば、延長コードで家電を使うことはできます。
コンセントのない車でできるのは「充電」まで
100Vのコンセントがない車でも、アクセサリーソケット(昔のシガーライター)やUSB端子から電気は取れます。ただし、量はぐっと少なくなります。トヨタの取扱説明書では、アクセサリーソケットで使えるのは消費電力120W未満の製品で、それ以上はヒューズが切れるおそれがあるとしています。
120Wあれば、スマホやモバイルバッテリーの充電、ノートパソコン(80W)、小さな照明などは十分です。一方、電気ストーブや炊飯器、電気ポットのように熱を出す家電は、ソケットにつなぐ変換器(インバーター)を使っても、まず動かせません。
もう1つ大事なのが、エンジンを止めたまま使い続けないことです。トヨタは取扱説明書で、エンジン(ハイブリッドシステム)を止めた状態でアクセサリーソケットを長時間使わないよう注意しています。12Vの小さなバッテリーが上がってしまうと、いざ避難しようとしたときに車が動かせなくなります。スマホを充電するなら、エンジンをかけているあいだに、モバイルバッテリーにまとめてためておくのが現実的です。
どの車でも一番気をつけたいのは「排気ガス」
ハイブリッド車で給電しているあいだ、エンジンは自動でかかったり止まったりします。運転席に誰もいなくても、エンジンは動いているのです。トヨタは、換気の悪い車庫の中や、雪に囲まれた場所では、排気ガスがたまるのを防ぐ対策ができない限り使わないよう注意しています。
経済産業省・消費者庁・製品評価技術基盤機構(NITE)は、発電機について、排気ガスに含まれる一酸化炭素で中毒になるおそれがあり、屋外でも車の中やテントの中で使えば屋内と同じかそれ以上に危険だと注意を呼びかけています。台風などによる停電のときに使った持ち運び式の発電機で、換気が足りずに中毒になる事故は毎年起きているといいます。
車で給電するときも、考え方は同じです。
- シャッターを閉めた車庫の中で給電しない。家に近いからと閉め切った車庫を使うと、排気ガスが家の中に流れ込むこともありえます。
- マフラーの出口をふさがない。雪が積もる地域では、マフラーのまわりの雪かきを忘れずに。
- 延長コードは窓に挟まない。トヨタは、窓を閉めるときに自動で全部閉めず、コードを挟まないよう隙間を残すよう案内しています。
このほか、トヨタは、雷が鳴りそうな天気のときは給電しないこと、エアコンを使った車内に子どもやペットを残さないことも注意しています。また、非常時給電システムを使っているあいだは電子キーで鍵をかけられず、キーの中にある金属のメカニカルキーを使う必要があります。
停電の前にやっておくこと
- 自分の車にコンセントがあるか、どのモードが使えるかを確かめる。取扱説明書の「AC100V」「アクセサリーコンセント」「非常時給電」のページに、手順が書いてあります。トヨタのプリウスの例では、ブレーキを踏まずにパワースイッチを2回押し、AC100Vのスイッチを1秒以内の間隔で3回押すと非常時給電モードに入ります。初めての操作を、停電の夜の暗い車内でやるのは大変です。
- つなぎたい家電の消費電力を調べておく。家電の裏や取扱説明書に「○○W」と書いてあります。合計が1500W(コンセントのない車なら120W未満)に収まるかを先に計算しておけば、当日あわてません。
- 屋外用の延長コードを1本用意する。車を家の外に止めたまま、家の中の冷蔵庫や照明に電気を引くために必要になります。
- 燃料と電池を減らしたままにしない。台風の予報が出たら、ガソリンを入れる、EVなら充電しておく。
自分の車に当てはめると
100Vコンセント付きのハイブリッド車・PHEVに乗っている人
停電対策としては、もっとも頼れる車です。ガソリンを多めに入れておけば数日単位で電気が使えます。冷蔵庫と照明とスマホの充電を基本に、寒い季節は電気ストーブを足す、といった使い方なら、表の数字に近い時間をまかなえます。給電中は換気のよい屋外に止めることだけは、必ず守ってください。
コンセントのないハイブリッド車・ガソリン車に乗っている人
車は「スマホの充電基地」と考えるのが現実的です。走行や暖房のためにエンジンをかけるついでに、モバイルバッテリーを満タンにしておく。家の中の電気は、乾電池式のランタンやカセットコンロなど、車以外の備えで補います。
EVに乗っている人
電池の残りがそのまま「停電を乗り切れる時間」になります。台風や大雪の予報が出たら、早めに満充電に近づけておきましょう。家全体に給電したいならV2H機器の導入を、そこまでは考えていないなら、車につなぐ給電用の器具と延長コードを用意しておくと、冷蔵庫や照明くらいはつなげます。
マンションに住んでいて、車が離れた駐車場にある人
車から家まで延長コードは届きません。この場合の車の役割は、スマホやモバイルバッテリーの充電と、暑さ・寒さをしのぐ一時的な避難場所です。持ち運べる小さな家電(扇風機や電気毛布など)を車の近くで使う、という使い方もありますが、車の中にいるあいだも排気ガスと換気への注意は欠かせません。
「何日もつか」は、つなぐものの数で決まる
車が出せる電気の量は、満タンや満充電の時点でほぼ決まっています。そこから先は、何をつなぐかしだい。冷蔵庫と明かりとスマホに絞れば数日、電気ストーブを足せば2〜3日、全部を一度に使えば1日余り。
停電の夜に車から電気を取るなら、まず「本当に必要なものは何か」を選ぶところから。それを決めておくことが、車を一番長く役立てる方法です。
情報源
- トヨタ自動車「クルマde給電」(電力供給日数・家電ごとの試算・注意事項) toyota.jp
- トヨタ自動車「AC100V給電システムの利用方法」(アクセサリーコンセントと非常時給電システム、プリウスの例) global.toyota
- トヨタ自動車 ヤリス 取扱説明書「アクセサリーソケット」 manual.toyota.jp
- 日産自動車「日産リーフ 蓄電池利用」 nissan.co.jp
- MONOist「日産、リーフから住宅に電力を供給するシステムを開発」(2011年8月2日、初代リーフ24kWh・約2日分) monoist.itmedia.co.jp
- 製品評価技術基盤機構(NITE)・経済産業省・消費者庁 同時発表「携帯発電機による一酸化炭素中毒に注意」(2023年8月) kyodonewsprwire.jp

