
「車両保険を付けると保険料が一気に上がる。でも外して、もしぶつけたら……」。自動車保険の更新や新しい車の見積もりのたびに、この迷いに行き当たる人は多いはずです。実際、日本で車両保険が付いている車は2台に1台に届きません。損害保険料率算出機構の最新統計で「どれくらいの人が入っているか」「1回の事故でいくら支払われているか」を確かめたうえで、保険を使ったときの保険料の上がり方も計算し、入るかどうかを決めるための判断の軸を整理します。
先に結論:決め手は「その金額を、自分で払えるか」
車両保険は、自分の車の修理代や、盗難・水没などで車を失ったときの損害を補償する保険です。相手への賠償(対人・対物)とは違い、付けるかどうかは自分で選べます。
入るべきかどうかは、車種や年齢よりも先に、次の一つの問いで考えると整理しやすくなります。
「この車が大きく壊れたり、なくなったりしたとき、その修理代や買い直しの費用を、生活を崩さずに自分で払えるか」
払えないなら車両保険は「必要な保険」で、払えるなら「あれば安心だが、保険料との見合いで選ぶもの」になります。この問いを軸にすると、よくあるケースは次のように分かれます。
| こんな状況 | 考え方の目安 |
|---|---|
| ローンや残価設定で買った、まだ支払いが残っている | 付けておく人が多い。車を失っても支払いは残るため |
| 新車や購入して数年の車で、修理・買い替えの費用を貯蓄でまかなうのは厳しい | 付けておくと安心。補償の範囲や自己負担額で保険料を調整する |
| 年数がたって車の価値が下がり、貯蓄で十分カバーできる | 外す、または範囲を絞る選択肢が現実的になる |
| 浸水しやすい場所や屋外に停めている、車が盗まれやすい地域 | 事故以外の損害も視野に。補償の範囲(どの型か)を必ず確認する |
※あくまで一般的な考え方の目安です。補償の内容や条件は保険会社・契約によって異なります。
車両保険が付いている車は47.4%
まず、ほかの人がどうしているかを見てみます。損害保険料率算出機構の「自動車保険の概況」(2025年度版)によると、2025年3月末時点で、任意の自動車保険に車両保険が付いている車の割合(普及率)は次のとおりです。
| 用途・車種 | 車両保険の普及率 | (参考)対人賠償の普及率 |
|---|---|---|
| 自家用普通乗用車 | 64.3% | 83.2% |
| 自家用小型乗用車 | 52.9% | 78.4% |
| 軽四輪乗用車 | 49.6% | 77.9% |
| 全用途・車種の合計 | 47.4% | 75.4% |
※損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」2025年度版 第18表(2025年3月末)。普及率は保有車両数に対する付保台数の割合で、共済は含まない。合計にはバイクや貨物車なども含まれる。前年(2024年3月末)の合計は47.2%。
任意保険そのものに入っている車(対人賠償)と比べると、車両保険を付けている車はそのうちの一部です。自家用の普通乗用車でも3台に1台は車両保険なし、軽乗用車ではほぼ半分が付けていません。
一方で、普通乗用車の64.3%に対し軽乗用車は49.6%と、車種によって15ポイント近い差があります。「みんなが入っているから」でも「みんな入っていないから」でもなく、車の価格が高いほど付ける人が増えている――数字からは、多くの人が「失ったときの金額の大きさ」で判断している様子がうかがえます。
1回の事故で、実際いくら支払われている?
では、車両保険を使うような事故では、どのくらいのお金が動いているのでしょうか。同じ統計の2024年度の支払い実績を、事故の形態ごとに1件あたりへ割り戻してみます。
| 事故の形態 | 支払件数(割合) | 1件あたりの支払保険金(概算) |
|---|---|---|
| 他の車・物・人との衝突、接触、転覆など | 約165万件(73.1%) | 約42万円 |
| 台風・竜巻・洪水・高潮 | 6,874件(0.3%) | 約84万円 |
| 盗難 | 4,041件(0.2%) | 約299万円 |
| その他(火災、飛来物・落下物など) | 約60万件(26.4%) | 約38万円 |
| 合計 | 約226万件 | 約41万円 |
※損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」2025年度版 第26表(2024年度)の支払件数と支払保険金(付帯費用を含まない)から、1件あたりの金額を割り算で求めたもの。
件数の7割以上はぶつけた・ぶつけられたという事故で、1件あたりは約42万円。全体の平均でも約41万円です。同じ統計では、車両保険の修理費の平均(免責金額などを差し引く前の金額)は39万2,877円で、そのうち約半分(49.8%)が部品代でした。
40万円前後という金額は、毎月1万円ずつ積み立てて3年半近くかかる額です。車両保険が守っているのは「よくある擦り傷」ではなく、この数十万円の出費を一度に負うかどうかだと考えると、自分に必要かどうかが見えやすくなります。
件数はごくわずかでも、盗難は1件あたり約299万円、台風や洪水も約84万円と金額が大きくなります。車が丸ごと使えなくなるケースが多いためです。台風や大雨のときの車の置き場所については、台風・大雨の前に、車はどこに停めておく?でまとめています。
入っていても「使わないほうが得」なことがある
ここで一つ、矛盾したように聞こえる話をしておきます。車両保険に入っていても、壊れたときに保険を使わずに自分で払ったほうが、トータルでは安く済むことがあります。
理由は「等級」です。自動車保険は1〜20等級に分かれていて、ぶつけた事故などで保険を使うと、翌年の等級が3つ下がります。さらにその後3年間は、同じ等級でも割引の小さい「事故有」の割引率が適用されます。つまり保険を使うと、翌年から少なくとも3年間、保険料が上がるのです。
どのくらい上がるのか、割引・割増を適用する前の保険料を仮に年10万円として計算してみます。
| 今の等級 | 翌年からの3年間 | 保険を使わなかった場合 | 使った場合(3等級ダウン) | 差額 |
|---|---|---|---|---|
| 20等級 | 1年目 2年目 3年目 |
37,000円(20等級) 37,000円(20等級) 37,000円(20等級) |
56,000円(17等級・事故有) 54,000円(18等級・事故有) 50,000円(19等級・事故有) |
3年で49,000円 |
| 13等級 | 1年目 2年目 3年目 |
48,000円(14等級) 47,000円(15等級) 46,000円(16等級) |
81,000円(10等級・事故有) 80,000円(11等級・事故有) 78,000円(12等級・事故有) |
3年で98,000円 |
※割引率は、東京海上日動のパンフレット(2026年1月1日以降始期用)に掲載された等級別の割増引率をもとにした値で、損保ジャパンの解説ページでも同じ値を確認(例:20等級は無事故63%引き・事故有51%引き、17等級の事故有は44%引き)。実際の保険料は、年齢条件や車の型式、補償内容、保険会社によって大きく変わるため、表は「割引前を年10万円」とした仮定に基づく計算例です。
20等級の人なら3年間で約5万円、13等級の人なら約10万円の差になりました。しかも13等級の例では、3年が過ぎても「使わなかった場合」より3等級低いところから再び上がっていくことになるため、20等級に追いつくまで差が続きます。この計算例では、4年目以降に追加で約4万円の差が生じます。
ここから言えるのは、修理代がこの差額より小さいなら、保険を使わず自分で払ったほうが安く済む可能性が高いということです。たとえば修理見積もりが5万円で、使った場合の保険料の増加が3年で5万円以上になるなら、使う意味はほとんどありません。
ただし、すべての車両保険の事故で3つ下がるわけではありません。損保ジャパンの説明では、盗難、車庫での水災、落書き、飛び石によるフロントガラスの損傷、台風で物が飛んできて当たった、といった事故は「1等級ダウン事故」で、等級は1つ下がり、事故有の期間も1年です。20等級の人の計算例なら、上がる保険料は翌年の1年分で13,000円(37,000円→50,000円)にとどまります。飛び石の傷の直し方はフロントガラスの傷、直せる範囲はどこまで?で詳しく扱っています。
この「小さな損害は自分で払う」という考え方は、次に紹介する保険料の下げ方にもつながっています。
付けるなら、保険料を左右する2つのつまみ
車両保険を付けると、保険料はかなり上がります。保険比較サイトなどの見積もり例では、車両保険なしに比べて保険料が1.5倍から2倍近くになる例が紹介されています。この負担を調整する方法として、多くの保険会社が用意しているのが次の2つです。
1つ目:補償の範囲を絞る(一般型とエコノミー型)
車両保険には、補償の範囲が広い「一般型」と、範囲を絞って保険料を抑えた「エコノミー型(車対車+限定Aなどと呼ばれる)」があります。名称や細かい範囲は保険会社によって異なりますが、おおまかな違いは次のとおりです。
| 損害の例 | 一般型 | エコノミー型 |
|---|---|---|
| 相手の車がわかる、車同士の事故 | ○ | ○ |
| 火災、台風・洪水、盗難、落書き、飛び石など | ○ | ○ |
| 電柱や塀にぶつけた単独事故 | ○ | × |
| 当て逃げ(相手がわからない) | ○ | × |
| 自転車との接触 | ○ | ×(多くの場合) |
※各社の解説ページをもとにした一般的な整理です。補償される範囲は契約する保険会社の約款・重要事項説明書で確認してください。
エコノミー型で補償されないのは、主に「自分だけで起こした事故」と「相手がわからない事故」です。運転に慣れていなくて車庫入れや狭い道でこすりそうな人、駐車場で当て逃げされやすい環境の人は、ここが外れることの意味をよく考える必要があります。逆に「単独事故の小さな傷は自分で直す」と割り切れるなら、エコノミー型で大きな事故と災害・盗難に備える、という選び方もあります。
2つ目:自己負担額(免責金額)を設定する
もう一つのつまみが「免責金額」です。事故のときに自分で負担する金額をあらかじめ決めておくもので、たとえば免責5万円なら、修理代30万円のうち5万円を自分で払い、残りの25万円が保険から支払われます。自己負担を大きくするほど、保険料は安くなります。
前の章で見たとおり、小さな損害では保険を使わないほうが得なことが多いのですから、どうせ自分で払う範囲の損害に、保険料を払う必要はありません。免責金額は「この金額までなら、ためらわず自分で払う」というラインを契約に書き込むもの、と考えるとわかりやすいでしょう。
車の価値は毎年下がる。保険の意味も変わっていく
車両保険の保険金額は、一般にその車の時価(今の市場での価値)をもとに決まります。新車のときは高く設定できても、年数がたつにつれて設定できる金額は下がっていきます。
すると、同じ車に乗り続けているうちに、「受け取れる保険金の上限」はどんどん小さくなる一方、保険料はそれほど下がらない、という状況が起こります。購入直後は「車を失ったら困る」が大きかったのが、何年かたつと「失っても、受け取れる額はそれほど大きくない」に変わっていくわけです。
だからこそ、車両保険は一度決めたら終わりではなく、車の年数と自分の貯蓄に合わせて見直すものです。更新のお知らせが届いたときが、一番自然な見直しのタイミングになります。なお、新車に乗り換えるときの等級の扱いは車を乗り換えたら自動車保険の等級はどうなる?で整理しています。
4つのケースで考える
ケース1:新車をローンで買ったばかり
事故で車が使えなくなっても、ローンの支払いは続きます。修理や買い替えの費用と残りのローンを同時に抱えるのは、多くの家計にとって重い負担です。このケースでは車両保険を付けておく人が多く、悩むとすれば「一般型かエコノミー型か」「免責をいくらにするか」です。運転に慣れていない、車庫や駐車場が狭いといった事情があれば、単独事故も補償される一般型を選ぶ意味は大きくなります。
ケース2:購入から7〜8年、貯蓄にも余裕がある
車の時価が下がり、仮に車を失っても貯蓄で次の車の頭金くらいは出せる、という状態なら、車両保険を外すことは十分に現実的な選択です。外して浮いた保険料を、自分で「修理用の積立」に回しておけば、実質的に自分で保険を持つのと同じ形になります。外すのが不安なら、エコノミー型に切り替えて災害や盗難などの大きな損害にだけ備える、という中間の選び方もあります。
ケース3:運転を始めたばかり、または家族に若い運転者がいる
若い運転者がいると保険料そのものが高く、車両保険まで付けると負担は大きくなります。一方で、運転に慣れないうちは車庫入れや単独事故の可能性も高めです。「保険料が高いから外す」と決める前に、「ぶつけたときの修理代を自分で払えるか」をもう一度考えてみてください。払えるなら外す、払えないなら免責金額を大きめにして保険料を抑えつつ付ける、という考え方ができます。
ケース4:屋外の駐車場で、浸水や盗難が気になる地域
車両保険を「事故のための保険」とだけ考えていると、このケースを見落とします。統計で見たとおり、台風・洪水や盗難は件数こそ少ないものの、1件あたりの金額は大きくなりがちです。エコノミー型でもこれらは補償されることが多いので、「事故の小さな傷は自分で直すが、車ごと失うリスクには備える」という人にはエコノミー型が候補になります。契約前に、水災や盗難が補償の範囲に入っているかを確認しておきましょう。
更新のたびに、一つだけ自分に聞く
車両保険は、保険料が高いぶん「入るか、入らないか」の二択で考えがちです。でも実際には、補償の範囲と免責金額というつまみで、自分に合った形に調整できます。そして、どの形を選ぶかの基準は、統計でも平均でもなく、自分の家計の中にあります。
更新のお知らせが届いたら、保険料の金額を見る前に、一つだけ自分に聞いてみてください。
「今この車を失ったら、いくらまでなら自分で払えるだろうか」。その答えが、車両保険に任せる部分と、自分で持つ部分の境目です。
参考にした情報
- 損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」2025年度版(2024年度統計)第18表・第26表・第27表 giroj.or.jp
- 損保ジャパン 自動車保険ガイド(事故の種類と等級への影響・事故有係数適用期間) sompo-direct.co.jp
- 損保ジャパン 自動車保険の解説ページ(車両保険の加入率) sompo-direct.co.jp
- セレクトラ 自動車保険の等級解説(東京海上日動パンフレット2026年1月1日以降始期用の割増引率表を掲載) selectra.jp
- オリコン顧客満足度 自動車保険(車両保険の一般型とエコノミー型) life.oricon.co.jp
- くるまのニュース 自動車保険の基礎知識(車両保険) kuruma-news.jp

