
「防災グッズは家にあるけど、車にも積んでおいたほうがいいの? 積むなら何から?」。地震や大雪、大雨は、家にいるときに来るとは限りません。通勤の途中、子どもの送り迎え、帰省の高速道路の上で足止めされることもあります。とはいえ、車の中は夏に50℃を超えることもある場所で、家の防災リュックをそのまま積めばいいというものでもありません。JAFの会員調査や車内温度のテスト、自治体の呼びかけをもとに、車に積む防災グッズを「優先順位」と「夏と冬の入れ替え」で整理します。
車に積むのは「家の備蓄の縮小版」ではない
家の備蓄は、「家で何日か過ごす」ためのものです。車に積むものは、目的が少し違います。想定するのは、主に次の二つの場面です。
- 渋滞や立ち往生、通行止めで、車の中で何時間か、ときには一晩過ごすことになった
- 出先で被災して、すぐには家に帰れない(車の中で避難する場合も含む)
この二つを考えると、積むものには自然と優先順位がつきます。
| 優先度 | 目的 | 主なもの |
|---|---|---|
| まず積む | 身を守る・外とつながる・トイレに困らない | 携帯トイレ、ライト(懐中電灯・ヘッドライト)、スマホの車載充電器とケーブル、脱出用ハンマー |
| 次に積む | 数時間〜一晩をしのぐ | 飲料水、保存のきく食べ物、毛布やブランケット、使い捨てカイロ、雨具、軍手、ウェットティッシュ、ごみ袋 |
| 季節と地域で足す | その時期・その土地ならではの困りごとに備える | 冬:スコップ、長靴、厚手の手袋、寝袋/車中泊避難を考えるなら:着圧ソックス、手回しラジオ など |
※JAF Mateが車中泊避難の持ち物として挙げているもの(着圧ソックス、手回しラジオ、懐中電灯、軍手、レインポンチョ、ウェットティッシュ、寝袋、毛布、携帯トイレ、使い捨てカイロ)や、JAFが雪道の立ち往生への備えとして挙げているもの(毛布、携帯トイレ、飲料水・食料など)をもとに、目的別に並べ替えたものです。順番は一つの考え方で、住んでいる地域や車の使い方で変わります。
車の防災グッズは、「家に帰れない数時間から一晩」を乗り切るための道具だと考えると、何を積むかが決まります。
車に備えている人は、8人に1人
実際に、どのくらいの人が車に防災グッズを置いているのでしょうか。JAF Mate Onlineが2026年3月に公開した会員アンケート(回答は約3万4,000人)では、防災グッズの保管場所(複数回答)は次のようになっていました。
| 保管場所 | 割合 |
|---|---|
| 自宅の居間・寝室 | 約60.7% |
| 自宅の玄関付近 | 約32.7% |
| クルマの中 | 約12.1% |
※JAF Mate Online「防災意識と実態」に関する会員アンケート(2026年3月6日公開)より。
車に置いている人は約12%、ざっと8人に1人です。同じ調査では、持っている防災グッズとして多かったのが懐中電灯・ランタン(約87%)、飲料水(約76%)、非常食(約58%)だったのに対し、使い捨てトイレは約25%、救急セットは約15%にとどまりました。また、防災グッズを最後に点検したのが「1年以上前」「覚えていない」という人を合わせると、約37%。3人に1人以上は、中身をしばらく見ていないことになります。
ライトや水は「防災グッズといえばこれ」と思い浮かびやすい一方、トイレは後回しになりがちです。ところが、車の中で足止めされたときに真っ先に困るものの一つが、このトイレです。
まず積むもの:トイレ、明かり、充電、脱出
携帯トイレ
高速道路や雪道で動けなくなると、車を離れてトイレを探すことができません。小さな子どもや高齢の家族がいればなおさらです。携帯トイレは軽くて場所も取らず、熱や寒さで使えなくなりにくいので、車に一番積みやすい防災グッズでもあります。目隠しになるポンチョやブランケットと一緒にしておくと、車内でも使いやすくなります。
ライト
夜の車外で、タイヤのまわりを見る、マフラーのまわりの雪をどける、といった作業には明かりが欠かせません。スマホのライトでも代わりにはなりますが、そのぶん電池を使います。両手が空くヘッドライトがあると、作業がぐっと楽になります。
スマホの充電は「車載充電器+ケーブル」で
情報を集めるにも、家族と連絡を取るにも、スマホの電池は命綱です。ここで注意したいのが、モバイルバッテリーを車に積みっぱなしにすることです。
JAF Mateが紹介したNITE(製品評価技術基盤機構)のまとめでは、2020〜2024年の5年間に通知されたリチウムイオン電池搭載製品の事故は1,860件で、そのうち約85%(1,587件)が火災につながっていました。事故は気温が上がる6〜8月に増える傾向があり、JAF Mateは車内に放置しないよう呼びかけています。2023年8月には熊本県で、高温の車内に置かれたモバイルバッテリーが発火して車内が焼ける火災も起きています。
そこで車には、エンジンをかけて使える車載の充電器(シガーソケットやUSB端子用)と、スマホに合ったケーブルを積んでおき、モバイルバッテリーは車に置くのではなく、ふだんから持ち歩く、という分け方が現実的です。
脱出用ハンマー
冠水や事故で、ドアが開かなくなったときのための道具です。座ったまま手が届く場所に置いておくのが基本で、荷室の奥にしまい込んでしまうと、いざというときに使えません。
一つ知っておきたいのは、ガラスの種類です。フロントガラスは、割れても破片が飛び散りにくい「合わせガラス」で、脱出用ハンマーでは割れません。さらに最近は、ドアのガラスに合わせガラスを使っている車種もあります。自分の車のどの窓が割れるのかは、取扱説明書や販売店、メーカーのお客様相談窓口で確認できます。水に浸かったときの脱出の流れは、クルマが冠水したら 水没を避ける判断と、閉じ込められたときの脱出でまとめています。
車は「備蓄」に一番向かない場所でもある
ここで、ちょっとした矛盾にぶつかります。車に防災グッズを積んでおきたい。けれど車の中は、物を長く置いておくには、家の中よりずっと厳しい場所です。
JAFが気温35℃の真夏に、昼の12時から4時間、炎天下に車を停めたテストでは、車内の最高温度は52〜57℃、ダッシュボードは74〜79℃に達しました。冬は逆に、外の気温に近いところまで冷え込みます。
この温度差を考えると、「家の防災リュックをそのまま積む」のは、うまくいかないことがあります。たとえば次のようなものです。
| もの | 車内に置くときの注意 | 考え方の例 |
|---|---|---|
| モバイルバッテリー | 高温で劣化・膨張し、発火の原因になることがある | 車には車載充電器とケーブル、バッテリーは持ち歩く |
| ペットボトル飲料 | 高温で内圧が上がり変形することがある。炭酸飲料は破裂のおそれ。日光が集まり火災の原因になることも指摘されている | 炭酸は避け、水を日の当たらない荷室などに。日付を決めて入れ替える |
| 食べ物 | 高温で傷んだり、溶けたりするものがある | 常温保存できるものを選び、保存温度の表示を確認する |
| ガスを使うもの(カセットボンベ、スプレー缶など) | 高温の車内での放置は避けるよう注意喚起されている | 車には積みっぱなしにしない |
※ペットボトルについては東京都の生活安全の注意喚起資料やくるまのニュースの記事、ガスを使うもの・電池などについては夏の車内に放置すると危ないものとしてまとめた各種記事をもとにしています。保存水・保存食の中には、車内での保管を想定して耐えられる温度を表示している商品もあるので、選ぶときは表示を確認してください。
車に積む防災グッズは、「役に立つか」と同じくらい、「暑さと寒さに耐えられるか」で選ぶものです。
家と車で、役割を分けるのも一つの方法です。家には量をしっかり、車には「熱に強いものを、少なめに、入れ替えながら」。どちらか一方で全部をまかなおうとしないほうが、続けやすくなります。
次に積むもの:水と、寒さをしのぐもの
水は「人数×1日分」を目安に、重さも考える
農林水産省の「災害時に備えた食品ストックガイド」では、飲み水と調理用の水を合わせて、1人1日およそ3リットルが目安とされています。これは家で過ごす前提の量ですが、車に積む量を考えるときの物差しにもなります。
| 乗る人数 | 1日分の水(1人3Lで計算) | 2リットルのペットボトルで | 重さの目安 |
|---|---|---|---|
| 1人 | 3L | 1.5本 | 約3kg |
| 2人 | 6L | 3本 | 約6kg |
| 4人 | 12L | 6本(1箱) | 約12kg |
※1人1日3リットル、水1リットル=約1kgとした計算例です。車内で数時間〜一晩過ごす場面では、飲み水だけで足りることが多く、必要な量は季節や過ごす時間によって変わります。
4人家族で1日分を積むと、2リットルのペットボトル1箱、約12kgです。ずっと積んでおくには少し重く、場所も取ります。まずは「乗る人数×1日分」を上限の目安にして、ふだんはその半分くらいから始める、という決め方でもかまいません。大事なのは、量よりも「ゼロにしないこと」と「入れ替えること」です。
寒さ対策は「毛布+カイロ」が実験でも効いた
冬の立ち往生でエンジンを止めたまま過ごすと、車内はどこまで冷えるのか。JAFは2014年2月、長野県の菅平高原で、夜11時から朝7時までの8時間、エンジンを止めた車内で過ごすテストを行いました。外の気温は開始時に−10.2℃、終了時には−12.9℃。開始時に25℃にしていた車内は、最後には−7℃まで下がりました。対策の違いによる結果は次のとおりです。
| 対策 | 結果 |
|---|---|
| 対策なし | 2時間45分でギブアップ |
| エマージェンシーシート | 5時間27分でギブアップ |
| 毛布+使い捨てカイロ | 8時間過ごせた(ただしカイロを貼れない足先や鼻は寒かった) |
| 冬山用の寝袋 | 8時間過ごせた(ただし4時間を過ぎたころから寒さを感じ、覆えない顔が冷えた) |
※JAFのユーザーテスト(2014年2月実施)の結果を紹介した、くるまのニュースの記事より。
何もしなければ3時間ももたない寒さでも、毛布とカイロがあれば朝までしのげた、という結果です。どちらも安く、軽く、長く置いても傷みにくいので、車に積む防寒具としては始めやすい組み合わせです。手袋や帽子、厚手の靴下を足すと、テストで寒さが残った「足先」や「顔」もカバーしやすくなります。
エンジンをかけて暖まるときは、マフラーのまわりを先に見る
「寒ければエンジンをかけて暖房をつければいい」と考える人もいるかもしれません。ガソリンが残っていれば、車は暖をとれる心強い場所になります。ただし雪の中では、エンジンをかける前に必ず確認したいことがあります。
雪でマフラーが埋まると、排気ガスが車の下にたまり、車内に入り込むことがあります。一酸化炭素は色もにおいもなく、気づかないうちに危険な状態になります。JAF Mateは、雪でマフラーが埋まったり、狭い場所でエンジンをかけ続けたりすると排ガスが車内に入り込むおそれがあると注意を呼びかけています。千葉市も、車中泊避難の注意点として、寒くても定期的に窓を開けて換気すること、ほかの車と十分な距離をとって停めることを挙げています。
だからこそ、雪の多い地域ではスコップが「季節と地域で足す」ものの筆頭になります。マフラーのまわりの雪をどけられるかどうかが、暖房を安全に使えるかどうかを分けるからです。ガソリンの残し方については、災害に備えて、ガソリンは半分になったら入れる?でまとめています。
使い方別:何をどこまで積むか
毎日、通勤や仕事で車に乗る人
車に乗っている時間が長いぶん、出先で被災する可能性も高くなります。「まず積むもの」(携帯トイレ・ライト・車載充電器・脱出用ハンマー)は一通りそろえておきたいタイプです。水と食べ物は自分1人の1日分くらいから。会社や外出先から歩いて帰ることも考えるなら、歩きやすい靴を1足積んでおくのも一つの考え方です。
小さな子どもを乗せることが多い人
子どもは大人より、トイレも空腹も寒さも待てません。携帯トイレは多めに、飲み物と、子どもが食べ慣れたおやつ、着替え、ウェットティッシュ、ブランケットを優先しましょう。おむつやミルクが必要な時期は、家のストックとは別に車用の小さなセットをつくっておくと、送り迎えの途中で足止めされても慌てずにすみます。
雪の多い地域に住む人、冬に雪国へ出かける人
冬は「毛布+カイロ」に加えて、スコップ、長靴、厚手の手袋を積んでおきたいところです。JAFの立ち往生の呼びかけでも、毛布や携帯トイレ、飲料水・食料とあわせて、手袋や牽引ロープなどが挙げられています。秋のうちに車の荷室を「冬仕様」に入れ替えておくと、初雪に慌てずにすみます。
車中泊での避難も考えている人
地震のあと、余震が怖い、避難所がいっぱい、ペットがいるといった理由で、車の中で過ごすことを考える人もいます。その場合は、一晩をしのぐ道具に加えて、着圧ソックスや手回しラジオ、寝られるように座席をフラットにするためのマットなどが候補になります。長く同じ姿勢でいるとエコノミークラス症候群の心配もあるので、こまめな水分補給と体操も欠かせません。詳しくは地震で車中泊避難になったら気をつけたいことでまとめています。
積んだら、季節の変わり目に一度開ける
車の防災グッズは、積んだ瞬間がゴールではありません。JAFの調査で3人に1人以上が「最後の点検は1年以上前か、覚えていない」と答えていたように、一度積むと、存在そのものを忘れがちです。
おすすめしたいのは、点検の日を季節の変わり目に結びつけてしまうことです。たとえば、夏タイヤと冬タイヤを履き替える日、あるいは衣替えの日。年に2回、荷室の箱を開けて、水と食べ物の期限、カイロや電池の状態を確かめ、夏は暑さに弱いものを降ろし、冬は防寒具とスコップを足す。それだけで、車の防災グッズは「いつか積んだもの」から「今使えるもの」に変わります。
防災グッズは、使わずに終わるのが一番です。それでも、雪の夜の高速道路や、帰れなくなった出先で、荷室の箱を開けた瞬間に「積んでおいてよかった」と思えるかどうか。
その差を決めるのは、グッズの多さではなく、最後に箱を開けた日です。
参考にした情報
- JAF Mate Online「防災意識と実態」に関する会員アンケート(2026年3月6日公開) jafmate.jp
- JAF Mate Online「『クルマがあれば安心』は本当? 車中泊と防災、見落としがちな備えのリアル」(2026年4月6日) jafmate.jp
- JAF Mate Online 車中泊避難の注意点と持ち物(2024年1月23日) jafmate.jp
- JAF Mate Online「夏の車内温度は70℃超えのため車内放置NG! リチウムイオン電池の発火事故が急増中」(NITEのデータを紹介) jafmate.jp
- くるまのニュース「雪によるクルマの立ち往生が多発! JAFが注意ポイントを呼びかけ」(JAFの車内温度テストを紹介) kuruma-news.jp
- くるまのニュース「『冬の車中泊』は寒すぎる? 暖房に『カーエアコン』使うのは超危険!?」 kuruma-news.jp
- 農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」関連ページ maff.go.jp
- 千葉市「車中泊避難」に関する案内ページ city.chiba.jp
- 東京都生活文化局 ペットボトル飲料の車内放置に関する注意喚起資料 shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp
- くるまのニュース「夏の車内に『ペットボトル置きっぱなし』は超危険!」 kuruma-news.jp
- ベストカーWeb「車内放置は超危険! 猛暑でスマホが火を吹く!? 夏に危ないリチウム電池搭載製品に要注意」 bestcarweb.jp
- くるまのニュース「『水没時、脱出できない?』 クルマの横窓に『割れない合わせガラス』増加!?」 kuruma-news.jp

