
「車の外気温計はプラスだったのに、橋に乗った瞬間にタイヤが軽くなった」――冬の朝、こんなひやりとした経験を聞くことがあります。路面の凍結は、雪が積もった日だけの話ではありません。気温が氷点下になっていなくても、雨や雪が降っていなくても、道は部分的に凍ります。この記事では、路面が凍り始める気温の目安と、凍りやすい場所・時間帯、見た目では分からない「ブラックアイスバーン」、そして北海道警察のスリップ事故データから見える注意点を整理します。
先に結論:「3℃」「橋とトンネルと日陰」「黒く濡れて見える路面」
| 見るポイント | 目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 気温 | 外気温が3℃以下になったら凍結を疑う | 路面は気温より3〜5℃ほど低くなることがあるため |
| 場所 | 橋の上、トンネルの出入口、日陰(林や山の斜面の陰) | まわりより冷えやすく、日が当たっても温まりにくい |
| 時間帯 | 夜から早朝、日中に溶けた雪や雨が残った日の夕方以降 | 夜のあいだに路面の熱が逃げ、溶けた水が再び凍る |
| 見た目 | 黒く濡れているだけに見える路面 | 薄い氷がアスファルトの色を透かす「ブラックアイスバーン」の可能性 |
どれも、知っていれば手前で速度を落とせるものばかりです。逆に言えば、凍結によるスリップの多くは「まさかここが凍っているとは」という場所と時間に起きています。
路面の凍結は、空ではなく足元の温度で決まります。気温がプラスでも、道はもう凍っているかもしれない――冬の運転は、そう考えるところから始まります。
気温がプラスなのに、なぜ道が凍るのか
天気予報やニュースで伝えられる気温は、地面から1.5mほどの高さの空気の温度です。一方、路面は空気とは別の冷え方をします。晴れた夜は、昼間に地面がためた熱が空へ逃げていく「放射冷却」が起き、地面は空気より先に冷えていきます。
国土交通省東北地方整備局の磐城国道事務所は、冬は気温より路面温度が低くなる傾向があり、その差は約3〜5℃と言われていると説明しています。そのうえで、道路の温度計(外気温)がプラスの場合でも路面が凍結している場合がある、と注意を呼びかけています。
この「3〜5℃の差」をそのまま当てはめると、次のような計算になります。
| 計算例:気温 | 路面温度の目安(3〜5℃低いと仮定) | 読み方 |
|---|---|---|
| 7℃ | 2〜4℃ | まだ凍らないことが多い |
| 5℃ | 0〜2℃ | 場所によっては凍り始めてもおかしくない |
| 3℃ | -2〜0℃ | 水があれば凍る温度に入る |
| 1℃ | -4〜-2℃ | 濡れた路面は凍っている前提で走りたい |
※編集部の計算例。「路面は気温より約3〜5℃低くなることがある」という説明をそのまま当てはめたもので、実際の路面温度は天気・風・日当たり・舗装の種類などで大きく変わります。
JAF Mate Onlineで交通事故鑑定人が解説している目安も、ちょうどこの計算と重なります。外気温がプラス3℃以下になれば、状況によって路面は凍ってしまうので、天候が悪くなくても3℃を下回ったら注意してほしい、というものです。
車の外気温表示の「3℃」はこのためにある
多くの車には外気温の表示があり、メーカーによっては3℃前後で注意を促す仕組みが入っています。たとえばトヨタGRヤリスの取扱説明書では、外気温が約3℃以下のときは外気温表示の横のマークが点滅し、そのあと点灯すると書かれています。ホンダN-VANの取扱説明書でも、外気温が3℃以下になるとメッセージが1回表示され、路面凍結のおそれがあると案内されます。
ただし、この表示は「路面が凍っているかどうか」を測っているわけではありません。トヨタの取扱説明書は、停車中や約20km/h以下の低速走行時、車庫やトンネルの出入口付近のように外気温が急に変わったときは、正しい外気温が表示されなかったり更新が遅れたりすることがある、とも書いています。表示が3℃を切ったら「この先は凍っている場所があるかもしれない」と切り替える合図として使い、プラスの数字を「凍っていない証拠」とは受け取らないのが安全です。
先に凍るのは、橋の上・トンネルの出入口・日陰
同じ道でも、凍るところと凍らないところがあります。北海道警察本部交通企画課の資料には、スリップ事故が起きる危険な場所として、写真つきで次の4つが挙げられています。
- 橋の上:橋の手前は乾いているのに、橋の上だけが凍っている
- トンネルの出入口:トンネルの手前は乾いているのに、出入口付近が一部凍っている
- 林の日陰:木に囲まれて日が当たらない部分だけが凍っている
- 山あいの斜面の陰:斜面の陰になる部分が凍っている
共通しているのは、「凍った道が続く」のではなく「乾いた道の途中に、凍った区間が急に現れる」ことです。直前まで普通に走れていたぶん、速度も気持ちも冬道の構えになっていない状態で、その区間に入ってしまいます。
橋は、雨も雪も降っていないのに濡れて凍ることがある
橋が凍りやすいのは、路面の下にも冷たい空気があるからです。地面の上の道路は、下にある土から少しずつ熱をもらえますが、橋は上も下も空中にさらされています。磐城国道事務所は、橋は上下が空中にあるため朝方の放射冷却で熱が奪われやすい構造で、まわりの空気との温度差で結露が起き、雨や雪が降らない場合でも路面が濡れていたり凍結したりすることがある、と説明しています。
「昨日から降っていないから大丈夫」が通用しないのは、このためです。冷え込んだ朝は、空気中の水分が冷えた橋の路面について、そのまま薄い氷になることがあります。
トンネルの出入口と日陰は「温まらない場所」
NEXCO中日本は冬道の注意として、橋の上やトンネルの出入口などは他の場所よりも気温が低くなり、路面が滑りやすい危険な場所だとして、手前で速度を落とすよう呼びかけています。トンネルの出入口は風が通りやすく、日も当たりにくい場所です。林や山の斜面の陰も同じで、昼になって日なたの氷が溶けても、そこだけ朝の氷が残ります。
道路を管理する側も、こうした場所を気にしています。磐城国道事務所は、国道の路面凍結抑制剤の散布を、急カーブや橋梁部、トンネルの前後、交差点の手前などに限定して行っていると説明しています。凍結防止剤がまかれた跡や散布車を見かけたら、「ここは凍りやすい場所だと分かっている区間」だと受け取ることもできます。逆に、まかれていない場所が凍らないという意味ではない点には注意が必要です。
あなたの地域の朝は何℃まで下がる?
「3℃」という目安を、地域の冷え込みに当てはめてみます。気象庁の平年値(1991〜2020年)で、各地の日最低気温の月平均を並べると次のようになります。
| 地点 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 札幌 | 8.0℃ | 1.6℃ | -4.0℃ | -6.4℃ | -6.2℃ | -2.4℃ |
| 長野 | 10.3℃ | 3.4℃ | -1.5℃ | -3.9℃ | -3.7℃ | -0.5℃ |
| 仙台 | 11.9℃ | 5.6℃ | 0.9℃ | -1.3℃ | -1.1℃ | 1.4℃ |
| 東京 | 14.8℃ | 8.8℃ | 3.8℃ | 1.2℃ | 2.1℃ | 5.0℃ |
| 大阪 | 16.0℃ | 10.2℃ | 5.3℃ | 3.0℃ | 3.2℃ | 6.0℃ |
※気象庁「過去の気象データ検索」平年値(年・月ごとの値)の日最低気温。月の平均なので、これより冷え込む朝も珍しくありません。山あいや郊外は、観測地点のある市街地より低くなることがあります。
札幌や長野では11月の時点で平均が3℃前後まで下がり、12月からは平均でも氷点下です。注目したいのは東京と大阪です。雪がほとんど降らない地域でも、1〜2月の朝の平均は3℃前後で、「3℃を下回る朝」は冬のあいだ何度もやってきます。
実際にJAF大阪支部は、大阪府内では積雪はまれでも、気温が低い日の朝晩は路面が凍結することがあるとして、注意を呼びかけています。雪国の人より、凍った道に慣れていない地域の人のほうが「まさか」になりやすい、とも言えます。
ブラックアイスバーン:濡れているようにしか見えない氷
凍結した路面のなかで、いちばん気づきにくいのが「ブラックアイスバーン」です。NEXCO中日本は、道路の表面が凍って黒く見えるブラックアイスバーンを、路面が濡れているだけに見えるため凍結に気づきにくく、最も注意すべき路面としています。白く凍った道なら誰でも身構えますが、薄い氷がアスファルトの色を透かしていると、雨上がりの濡れた道とほとんど区別がつきません。
見た目が同じでも、止まるまでの距離はまったく違います。JAFがスタッドレスタイヤを付けた車で、時速40kmから急ブレーキをかけて止まるまでの距離を比べたテストでは、次の結果でした。
| 路面(スタッドレスタイヤ・時速40km) | 止まるまでの距離 |
|---|---|
| ウェット路面(濡れたアスファルト) | 11.0m |
| ブラックアイスバーン | 69.5m |
※JAF(大阪支部)の発表より。ABSが作動する条件での計測。
69.5÷11.0≒6.3で、見た目がほとんど同じ2つの路面で、止まるまでの距離は約6倍になります。差の58.5mは、長さ4.5mほどの乗用車を13台並べた長さです。時速40kmは1秒で約11m進む速さなので、ウェット路面ならほぼ1秒分の距離で止まれるのに対し、ブラックアイスバーンではその何倍もの距離を、ハンドルもブレーキも効きにくいまま滑っていくことになります。
しかも、このテストの車はスタッドレスタイヤを付けています。冬用タイヤに替えていても、凍った路面ではこれだけ止まりにくい、ということです。タイヤの選び方や替える時期については、オールシーズンタイヤとスタッドレス、どっちがいい?と冬タイヤへの交換はいつがいい?で整理しています。
前述のJAF Mate Onlineの解説では、時速30〜40km程度で走るとき、圧雪の路面は通常の路面の3〜4倍、凍結した路面は7〜8倍も滑りやすくなり、速度が上がるほど滑りやすくなるとしています。ブラックアイスバーンができやすいのは、夜から早朝の冷え込み、日中に溶けた雪が夕方以降にふたたび凍る「再凍結」、雨のあとに急に冷え込んだときです。昼に濡れていた道は、夜には別の道になっていると考えておくほうが安全です。
北海道のスリップ事故データから見えること
凍った道での事故は、実際にどんなときに起きているのでしょうか。北海道警察本部交通企画課は、凍結路面によって止まるまでの距離が長くなったり、進路が左右にずれたりしたことが原因の事故を「スリップ事故」として集計しています。令和元年度〜令和5年度の各年度11月〜翌3月の5冬分を合計すると、死亡事故40件、負傷事故2,750件です。
| 月(5冬分の合計) | 負傷事故 | 死亡事故 | 死亡事故の割合(計算例) |
|---|---|---|---|
| 11月 | 182件 | 6件 | 約3.2% |
| 12月 | 846件 | 17件 | 約2.0% |
| 1月 | 810件 | 7件 | 約0.9% |
| 2月 | 726件 | 7件 | 約1.0% |
| 3月 | 186件 | 3件 | 約1.6% |
※件数は北海道警察本部交通企画課「スリップが要因となる交通事故実態」(令和6年10月10日)より。死亡事故の割合は編集部の計算で、死亡事故÷(死亡事故+負傷事故)。例:11月は6÷188≒3.2%、5冬全体では40÷2,790≒1.4%。
件数のピークは12月で、死亡事故・負傷事故とも最も多くなっています。冬が本格化し、路面が凍る日が一気に増える時期です。
「件数の少ない11月のほうが、事故が重くなりやすい?」
表の右端を見ると、気になる数字があります。11月は事故の件数こそ12月の4分の1以下ですが、起きた事故のうち死亡事故になった割合は約3.2%で、5冬全体の約1.4%の2倍以上です。
この資料は理由までは分析していないので、ここからは一つの見方です。11月は、日中はまだ秋の気温で、乾いた道を普段どおりの速度で走れる日がほとんどです。そこへ、朝の橋の上や日陰だけが凍っている、という状況が重なります。凍った道が続く真冬と違い、「冬道の走り方」に切り替わっていない速度のまま、凍った区間に入ってしまう――件数は少なくても、起きたときの衝撃が大きくなりやすいのは、そうした状況と矛盾しません。
いちばん危ないのは、凍る日が多い真冬よりも、「たまにしか凍らない」時期の、たまにしか凍らない場所なのかもしれません。
「死亡事故はカーブより直線で多い」の理由
もう一つ意外なのが、場所の内訳です。死亡事故40件のうち36件は市街地の外で起きていて、いちばん多いのは「市街地外の直線」の24件、次が「市街地外のカーブ」の10件でした。滑りやすいのはカーブのはずなのに、直線のほうが2倍以上多いのです。
事故の形を見ると、死亡事故で最も多いのは正面衝突の22件で、次が車両単独の16件。正面衝突22件のうち16件は、スリップを起こした側が普通車・軽自動車、相手が大型・中型車という組み合わせでした。北海道警察はこの資料で、対向車線を走ってくる大型車からの圧迫感で、間隔を取ろうとしたり減速しようとしたりして不用意なハンドル操作やブレーキ操作をし、スリップを起こして対向車線にはみ出すケースがある、と説明しています。
実際、死亡事故40件のうち34件(ハンドル操作23件、ブレーキ操作11件)は、運転操作が路面に合っていなかったことが要因とされています。直線は速度が出やすく、そこで「怖い」と感じた瞬間のとっさの操作が、凍った路面では大きなスリップにつながる。直線で多い理由は、このように考えると納得がいきます。
負傷事故は「朝の通勤時間」と「追突」
負傷事故の側は、また違う姿をしています。時間帯では8時台が341件で最も多く、7時台・9時台(各244件)、17時台(226件)と続き、通勤の時間帯に集中しています。事故の形では追突が1,529件で、負傷事故全体の約6割(約55.6%)を占めます。場所は市街地が8割以上で、交差点が最も多くなっています。
朝の冷え込みが残る時間に、交差点の手前で前の車に続いて止まろうとして、止まりきれない。凍った路面での事故の多くは、こうした日常の場面で起きています。
凍っているかもしれない道の走り方
凍結した路面では、「上手に止まる」より「止まる必要が出ないように走る」ほうが確実です。JAF・NEXCO・北海道警察などの呼びかけをまとめると、次のようになります。
- 橋やトンネルの手前で速度を落としておく:凍っている区間に入ってからブレーキを踏むのではなく、乾いた路面のうちに減速を終えておく(NEXCO中日本)。
- 「急」のつく操作をしない:急発進・急ブレーキ・急ハンドルを避ける。凍結状態を見た目で判断せず、滑ることを前提にした運転を(JAF大阪支部)。
- 車間距離は乾いた路面の2倍以上:JAF Mate Onlineの解説での目安。朝の通勤時間帯の追突を防ぐ、いちばん手軽な方法です。
- 下り坂はエンジンブレーキを使う:フットブレーキだけに頼らない(JAF Mate Online)。
- 大型車とすれ違うときに、とっさにハンドルを切らない:事前に速度を落としておけば、すれ違いの瞬間に慌てて操作する必要がなくなります(北海道警察の資料の事故の流れから)。
運転支援の機能が付いた車でも、止まれる距離そのものが短くなるわけではありません。路面の状態は車に任せきりにせず、自分の目と外気温表示と時間帯で「凍っているかもしれない」と先に判断しておくことが大切です。
あなたの冬の運転は、どのパターン?
雪国で、毎朝車で通勤している人
北海道のデータで負傷事故が最も多いのは、8時台を中心とした通勤時間帯の追突でした。凍った道に慣れている人ほど、毎日の同じ道で「いつもの車間距離」に戻りがちです。橋や交差点の手前だけでも、車間を普段の2倍に広げる習慣をつけておくと安心です。
雪がほとんど降らない地域の人
東京や大阪でも、真冬の朝は平均で3℃前後まで下がります。雪が積もらなくても、川を渡る橋の上や、高架道路、ビルの陰の交差点は凍ることがあります。外気温表示が3℃を切った朝は、「今日は凍っている場所があるかもしれない」と頭を切り替えましょう。夏タイヤのまま走る人ほど、橋の上での急ブレーキは避けたい場面です。
スキーや紅葉の帰りなど、山道を走る人
山あいの道は、日なたは乾いているのに、カーブの先の日陰だけが凍っていることがよくあります。日中に溶けた雪が夕方から凍り直すので、帰り道は行きと同じ道でも条件が変わります。雪山へ出かける前の準備は雪道で立ち往生したら、車の中でどう過ごす?もあわせて確認しておくと安心です。
夜に帰宅することが多い人
夜の濡れた路面は、ブラックアイスバーンと見分けがつきません。昼に雨や雪解けで濡れていた日は、帰り道の黒い路面を「濡れているだけ」と決めつけないことが大切です。夜の視界の注意点は夜道で見えにくいのはなぜ?で、朝のフロントガラスの凍結はフロントガラスが凍った朝、どう溶かす?で扱っています。
凍った道は、白く光っているとは限りません。乾いた道の途中にある橋の上、トンネルの出口、日陰のカーブに、濡れたような顔をして待っています。今年の冬は、外気温表示が3℃を切った朝から、橋の手前でアクセルを少し早めに戻してみてください。
情報源
- 国土交通省 東北地方整備局 磐城国道事務所「平維持出張所news 第126号 いわき冬道ドライブ講座」(令和4年1月31日) thr.mlit.go.jp
- 北海道警察本部交通企画課「スリップが要因となる交通事故実態 過去5年度冬季累計」(令和6年10月10日) police.pref.hokkaido.lg.jp
- NEXCO中日本「冬の雪道ドライブ 冬道の注意点」 c-nexco.co.jp
- JAF大阪支部 ブラックアイスバーンへの注意の呼びかけ(2025年12月) san-tatsu.jp
- JAF Mate Online「冬の運転前に必見! ブラックアイスバーンから身を守る対策【交通事故鑑定人が解説】」(2025年11月9日) jafmate.jp
- 気象庁「過去の気象データ検索」平年値(年・月ごとの値)札幌・長野・仙台・東京・大阪 data.jma.go.jp
- トヨタ GRヤリス 取扱説明書(2025年5月版)「外気温表示」 manual.toyota.jp
- ホンダ N-VAN 取扱説明書(2025年)「外気温3℃以下の表示」 honda.co.jp

