
「全固体電池が出たらEVは一気に変わるらしい。じゃあ今買うのは損?」──EVを考え始めた人がいちばん引っかかるのが、この疑問です。トヨタ・日産・ホンダ、そして中国のBYDが、2026年10月までに出している計画と、実際にどこまで進んでいるかを、メーカー・素材メーカーの発表をもとに整理しました。
2027〜28年に「出始める」が、普通に選べるのはその先
トヨタと日産が掲げている目標は、どちらも2027〜2028年ごろです。トヨタは「2027〜2028年の実用化にチャレンジ」、日産は「2028年度までに全固体電池を搭載したEVを市場投入」としています。ホンダは時期を年で区切らず「2020年代後半に投入する電動モデルへの搭載を目指す」という言い方です。
ただし、どれも「最初のモデルを世に出す」目標で、その時点でたくさん作れるという意味ではありません。トヨタと組む出光興産は、自社の事業計画で全固体電池の材料(固体電解質)の「量産・事業化」を2030年に置いています。中国のBYDも、2027年は約1,000台規模の実証にとどめ、本格的な量産は2030年ごろと伝えられています。
全固体電池は「数年後に普通に選べる電池」ではなく、「数年後に、まず一部の車で試され始める電池」です。
何が「全固体」なのか
今のEVに使われているリチウムイオン電池は、電池の中で電気を運ぶ役目の「電解質」が液体です。全固体電池は、これを粉のような固体に置き換えます。出光興産は、全固体電池の特長を「イオンが移動しやすく、充電時間の短縮や高出力化につながる。高電圧・高温に強く、エネルギー密度の向上や長寿命化も期待される」と説明しています。日産も、エネルギー密度は従来の約2倍、充電時間を大幅に短くできるとしています。
難しいのは作り方です。液体なら電極のすき間に自然に染み込みますが、固体はそうはいきません。固体どうしをすき間なく押し固め、それを工場で毎日同じ品質で作り続ける必要があります。ホンダが栃木に建てた実証ラインでも、固体電解質の層を緻密にするためのロールプレス(ローラーで押し固める工程)が要の技術として紹介されています。各社が「研究室で作れる」段階から「工場で安定して作れる」段階へ移る途中にいる、というのが2026年の現在地です。
各社の計画と、2026年10月時点の進み具合
| メーカー | 目標 | これまでに公表された動き |
|---|---|---|
| トヨタ | 2027〜2028年の実用化にチャレンジ | 2025年10月、住友金属鉱山と正極材の量産に向けた共同開発契約。2026年1月、出光興産が固体電解質の大型パイロット装置の建設を開始(千葉県市原市、2027年中に完工予定) |
| 日産 | 2028年度までに搭載EVを市場投入 | 2024年4月、横浜工場内に建設中のパイロット生産ラインを公開 |
| ホンダ | 2020年代後半に投入する電動モデルへの搭載 | 2024年11月、栃木県さくら市の実証ライン(延床約27,400㎡、投資額約430億円)を公開。2025年1月の稼働開始を予定と発表 |
| BYD(中国) | 2027年に最初の搭載モデル | 2026年9月、副総裁が2027年に最初のモデルを用意すると発言。約1,000台規模の実証で、高級ブランド「仰望(ヤンワン)」から。車種・航続距離は未公表 |
トヨタの計画は、材料を作る側の動きで進み具合が見えます。出光興産は2026年5月に建設地で立柱式を行い、「基礎工事が計画通り完了し、本格的に建設工事がスタート」と発表しました。固体電解質の原料になる硫化リチウムの製造装置も、2027年6月の完工に向けて建設中です。パイロット装置の生産能力は年間数百トンの見込みで、出光はこの装置を量産技術を固めるための段階と位置づけ、その先の量産設備は市場環境や技術開発の状況を見て判断するとしています。
日産とホンダは、実証ラインを公開した後、2026年10月までに市販の時期や車種を具体的に示した発表は出ていません。どちらも「目標は変えていない」という状態で、量産までの道のりは材料・設備の発表が少しずつ出てくる形で進みそうです。
「充電10分で1,200km」はどこから来た数字か
全固体電池の話でよく見る「航続距離1,200km・充電10分」は、トヨタが2023年6月の技術説明会で示した目標がもとになっています。ただ、トヨタの発表の書き方は少し違います。
- まず、次世代のリチウムイオン電池(パフォーマンス版)で航続距離1,000km(空力や軽量化など車両側の改善分を含む)を目指す
- 全固体電池は、そのパフォーマンス版と比べて航続距離20%向上、急速充電は10分以下(電池残量10%→80%)を目指す
- さらに先の仕様として、パフォーマンス版より航続距離50%向上を目指すものも研究中
1,000kmの20%増しで「1,200km」、50%増しで「1,500km」という数字になりますが、どちらも掛け算の結果で、トヨタが「1,200km」と言い切ったわけではありません。そして「10分」は、空からの満充電ではなく、残量10%から80%までの時間です。
実感しやすいように、仮に航続距離1,200kmの車があったとして計算してみます。残量10%から80%までは電池の7割ぶんなので、1,200km×0.7=約840kmぶん。10分以下でこれだけ入るなら、高速のサービスエリアでトイレ休憩をする間に、東京から大阪を片道走ってもまだ余るくらいの量が入る計算です。ただしこれは目標値をそのまま当てはめた仮定の計算例で、実際の車の性能や、外気温・充電器の出力などの条件で大きく変わります。
「固体電池搭載」と書かれていても、全固体とは限らない
ニュースで「固体電池を積んだEVがもう売られている」と見かけることがありますが、多くは半固体電池です。電解質の大部分を固体にしつつ、一部に液体が残っている電池のことです。
たとえば中国のNIO(ニオ)は、2024年4月に容量150kWhの半固体電池パックの量産品を生産ラインから送り出しました。MGは2026年、欧州で売る小型EVに「SolidCore」と名付けた半固体電池を採用し、電解質の約95%が固体(残り約5%が液体)と説明しています。
半固体電池は、今のリチウムイオン電池と全固体電池の中間にあたる技術です。「固体電池」という言葉だけで、トヨタや日産が目指している全固体電池と同じものだと受け取らないようにしたいところです。
全固体電池を待つべきか:3つのケース
今の生活でEVが必要な人
待つ理由は薄いと考えられます。全固体電池の最初のモデルは高価格帯から出る見込みが強く、普通の価格帯に降りてくる時期はまだどこも示していません。今のリチウムイオン電池も、平均では10年で新品の約8割の容量を保つというデータがあり(EVのバッテリー劣化の記事)、毎日の通勤や買い物の範囲なら、待つ間の不便のほうが大きくなりがちです。
数年後の買い替えでEVを考えている人
2027〜2028年に出てくる最初のモデルの価格や中身を見てから決める、という順番が現実的です。その頃でも、選べる車種の大半はリチウムイオン電池の車のはずなので、「全固体かどうか」より「家で充電できるか」「1日に何km走るか」のほうが選び方を左右します(PHEVとHEVの選び方も参考に)。
新しい技術に最初に乗りたい人
トヨタ・日産・BYDの最初の搭載モデルの発表を追うことになります。ただ、どの社も車種・価格・台数をまだ公表していません。最初のモデルは台数が限られ、価格も高めになると考えておくほうが、期待とのずれが小さくて済みます。
全固体電池は「待てば来る」のではなく、「来てから、だんだん広がる」技術です。
【更新 2026年10月13日】内容を最新の情報に合わせて全面的に見直しました。
情報源
- トヨタ自動車「電動化技術 – バッテリーEV革新技術」(2023年6月13日) global.toyota
- トヨタ自動車 ニュースリリース(住友金属鉱山との全固体電池用正極材の量産に向けた共同開発契約、2025年10月8日) global.toyota
- 出光興産「固体電解質(全固体電池材料)大型パイロット装置の最終投資決定および建設開始について」(2026年1月29日) idemitsu.com
- 出光興産「固体電解質(全固体電池材料)大型パイロット装置の建設に向け、立柱式を実施」(2026年5月20日) idemitsu.com
- 日産自動車「日産自動車、建設中の全固体電池パイロット生産ラインを公開」(2024年4月16日) global.nissannews.com
- Honda ニュースリリース(全固体電池のパイロットラインの公開、2024年11月21日) global.honda
- webCG「ホンダの全固体電池パイロット工場を見学! 開発の最前線で感じた量産までの距離感」(2024年12月6日) webcg.net
- 財経新聞「BYD、2027年に全固体電池搭載車を実証へ 量産は2030年ごろを視野」(2026年9月15日) zaikei.co.jp
- 36Kr Japan「BYD、全固体電池EVを2027年投入へ まず1000台規模、高級車から実証か」(2026年9月20日) 36kr.jp
- CnEVPost「Nio sees 1st mass-produced 150-kWh semi-solid battery pack roll off line」(2024年4月4日) cnevpost.com
- Forbes JAPAN(MG4の半固体電池「SolidCore」、2026年4月3日) forbesjapan.com
- 各社の目標時期・性能はいずれも計画・目標値で、変更されることがあります。最新の情報は各社の発表で確認してください。

