
電気自動車(EV)は冬に弱い——そう聞いたことがある人は多いと思います。ネットには「冬は航続距離が半分になる」という話もあれば、「冬でもほとんど変わらなかった」という試乗レポートもあります。どちらも嘘ではありません。違いを生んでいるのは、その日が何℃だったか、そして暖房をどう使ったかです。海外の数万台規模の走行データ、北欧の極寒テスト、国内のJAFの検証を並べて、冬のEVの航続距離がどれくらい減るのかを整理します。
減り方は「気温」で大きく変わる
まず、いくつかの調査・テストの結果を、気温の順に並べてみます。調べ方も車種も違うため単純な比較はできませんが、おおまかな傾向はつかめます。
| 気温の目安 | 出典・条件 | 航続距離・電費の変化 |
|---|---|---|
| 最低5℃前後(関東の冬) | 東京電力エナジーパートナー「EV DAYS」の長距離ドライブ検証(日産アリア、2025年2月、約700km) | 電費は夏5.4km/kWh、冬5.3km/kWhでほぼ同じ |
| 0℃前後 | 米Recurrentの実走行データ(2024・2025年の冬、1万8,000台以上・20車種) | 平均で本来の航続距離の約8割(約2割減) |
| −2〜−15℃ | ノルウェー自動車連盟(NAF)などの冬季テスト「El Prix」2025年(24車種) | 最も差が小さかったPolestar 3でWLTP値の約5%減(561km→531km) |
| −31〜−32℃ | 同 El Prix 2026年(2026年1月、24車種) | WLTP値と比べて平均38%減 |
※各出典の公表内容より編集部で整理。Recurrentは米国の中古EV診断会社で、対象は米国で走る車(日本で売られていない車種を含みます)。El PrixはWLTP値(欧州の公式な航続距離)との比較です。調査方法・車種・走り方がそれぞれ違うため、数字を横並びで比べるものではなく、傾向を見るための表です。
関東の冬くらいなら、ほとんど変わらないこともある。氷点下に入ると2割前後減りはじめ、北欧の真冬のような極寒では4割近く減る。表からはそんな流れが見えてきます。
冬のEVの航続距離は、「冬かどうか」ではなく「何℃か」で決まります。
「半分になる」と「変わらなかった」、どっちが本当?
「結局、冬に半分になるの? ならないの?」——ここがいちばん混乱しやすいところだと思います。
「半分」という話には、実はそれなりの根拠があります。EVの情報サイトEVsmartブログが紹介している2015年ごろのデータでは、夏と冬の航続距離を比べると、初代日産リーフで約41%減、BMW i3で約40%減、三菱i-MiEVで30〜36%減となっていました。「冬は4割減、半分近くになる」というイメージは、このころのEVの実感から来ている部分が大きいと考えられます。同じデータでも、バッテリーを温める仕組みを持っていたテスラのモデルSは23〜24%減にとどまっていました。
一方で、最近の調査は様子が違います。先ほどのRecurrentのデータでは、氷点下前後での平均は約2割減。関東の冬の長距離ドライブでは、電費がほとんど変わらなかったという検証もあります。
つまり、「半分」も「変わらない」も、それぞれの条件では本当だった、ということです。違いを生んでいるのは主に三つです。
- 気温:5℃と−15℃では、暖房に必要な電気もバッテリーの冷え方もまったく違います。
- 暖房の仕組み:後で説明するヒートポンプ式か、電気ヒーター式かで、同じ暖かさを得るための電気の量が変わります。
- バッテリーの温度管理:バッテリーを適温に保つ仕組みがあるかどうかで、冷えによる性能低下の受け方が変わります。
もう一つ、El Prix 2026の結果から見えることがあります。この年、最も長く走ったのはLucid Airで、520kmでした。ただ、この車のWLTP値は960kmなので、減り方で見ると約46%減で、参加車の中でも大きいほうでした。
減り方の「%」が小さい車と、実際に遠くまで走れる車は、必ずしも同じではありません。もともとの航続距離が長ければ、同じ割合で減っても手元に残る距離は長くなります。冬のEVを考えるときは、「何%減るか」と同じくらい、「冬でも何km残るか」を見るのが実用的です。
なぜ冬に減るのか:いちばん大きいのは暖房
冬に航続距離が減る理由は、大きく分けて二つあります。
暖房の電気を、走るための電気から出している
ガソリン車は、エンジンが出す熱(排熱)を利用して車内を暖めています。もともと捨てている熱を使うので、暖房を強くしても燃費への影響はほとんどありません。EVにはその排熱がないため、暖房の熱もバッテリーの電気でつくる必要があります。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が紹介しているデンソーの車載ヒートポンプ開発の記事では、EVでは冬の暖房のエネルギーが車全体の消費エネルギーの50%程度になる場合もあるとされています。Recurrentも、冬に航続距離が減るいちばんの原因は車内の暖房だと説明しています。
数字の大きさを実感するために、計算例を一つ置いておきます。EVの暖房に使われる電気ヒーター(PTCヒーター)の最大消費電力は、小さいもので3kW、大きいものでは7kWほどとされています。
| ヒーターの消費電力 | 1時間動かしたときの電力量 | 電費6km/kWhの車なら、何km分?(計算例) |
|---|---|---|
| 3kW | 3kWh | 約18km分 |
| 7kW | 7kWh | 約42km分 |
※ヒーターが最大出力のまま1時間動き続け、車の電費を6km/kWhと仮定した編集部の計算例です(3kWh×6km/kWh=18km、7kWh×6km/kWh=42km)。実際のヒーターは車内が暖まると出力を下げるため、通常はこれより少なくなります。電費も車種・速度・道路状況で大きく変わります。
実際には暖房がずっと最大で動くことはありませんが、「暖房1時間で、数十km走れるぶんの電気を使うこともありうる」というスケール感は覚えておいて損はありません。
バッテリーそのものが冷えると、働きが鈍る
もう一つの理由は、バッテリーの性質です。EVに使われているリチウムイオン電池は、低温になると中の化学反応が遅くなり、内部抵抗が大きくなります。そのため、取り出せる電気や出力が落ち、充電にも時間がかかりやすくなります。
El Prix 2026では、極寒の中でも、充電前にバッテリーを温めておく機能(プレコンディショニング)を使うと、多くの車が10%から80%までの充電を公称値に近い時間で終えられたと報告されています。冬に「充電が遅い」と感じる場合、バッテリーの温度が関係していることが多いわけです。
ヒートポンプの有無で、冬の差がはっきり出る
暖房がいちばんの原因なら、暖房の効率を上げれば減り方は小さくなるはずです。その役割を担っているのが「ヒートポンプ」です。
ヒートポンプは、家庭のエアコンと同じように、外の空気などから熱を集めて車内に運ぶ仕組みです。電気で直接熱をつくる電気ヒーターに比べて、少ない電気で同じだけ暖められます。NEDOの記事では、デンソーが開発したヒートポンプで、電気ヒーターによる暖房に比べてエネルギー消費を約60%減らせたと紹介されています。
その差は、実際の走行データにも出ています。
| Recurrentのデータ(氷点下前後の平均) | 本来の航続距離に対して |
|---|---|
| ヒートポンプあり | 約83% |
| ヒートポンプなし | 約75% |
| 全体の平均 | 約80% |
※Recurrentの調査(2024・2025年の冬、米国の1万8,000台以上)を紹介したEV.comの記事より。車種ごとの差も大きく、同じ調査では最も良かった車で約89%、最も低かった車で約63%でした。
平均で8ポイントほどの差ですが、航続距離400kmの車なら30km前後の違いになります(400km×8%=32km、という単純な計算例です)。寒い地域で使うことが多い人は、候補の車にヒートポンプが付いているか、グレードによって違わないかを、カタログや販売店で確認しておくと判断材料になります。
止まっているときの暖房は、もっと差が出る
冬のEVでもう一つ気になるのが、大雪で立ち往生したときのことです。走っていなくても、暖房はバッテリーの電気を使い続けます。
JAFは2021年2月、山形県で外気温−8.1℃の中、4台のEVに1人ずつ乗り、暖房の使い方を変えて一晩過ごすテストをしています。開始時のバッテリー残量はすべて70%にそろえ、19時から翌朝8時まで様子を見ました。
| 暖房の使い方 | 結果 |
|---|---|
| オートエアコン25℃をつけっぱなし | 翌朝4時30分ごろに残量10%となり、テスト終了 |
| 電気毛布のみ(電源ソケットを使用) | 翌朝8時まで過ごし、残量50%以上 |
| シートヒーター(Hi)+電気フットヒーター | 翌朝8時まで過ごし、残量50%以上 |
| 毛布を使い、寒いときだけエアコンON | 翌朝8時まで過ごし、残量25% |
※JAFユーザーテスト「大雪による車の立ち往生~危険性と防寒対策を検証~」および、その内容を報じたくるまのニュース・Car Watchの記事より。
エアコンをつけっぱなしにした車は、9時間半ほどで残量を70%から10%まで使いました。1時間あたりにすると6%強です。一方で、電気毛布やシートヒーターで体を直接温めた車は、13時間たっても使ったのは20%足らずでした。
ただし、JAFはエアコンをつけっぱなしにした車がいちばん快適に過ごせたことも伝えています。電気毛布やシートヒーターは電気をあまり使わない代わりに、車内の空気そのものは冷えたままです。「電気を残すこと」と「体への負担を減らすこと」のバランスを取りながら、エアコンと体を直接温める手段を組み合わせるのが効果的、というのがJAFのまとめです。
走行中も考え方は同じです。JAF Mateの記事で、モータージャーナリストの岡本幸一郎さんが冬の長野で日産アリアを試したところ、シートヒーターやステアリングヒーターをONにしても航続可能距離の表示は変わらず、エアコンを全開にしたときとの差がはっきり出たといいます。記事では、無理に我慢せずエアコンも使って快適に運転したほうがいい、という考え方も紹介されています。
冬の航続距離、自分の場合はどう見積もる?
ここまでのデータから、冬に使える距離のおおよその目安を計算してみます。
| ふだんの航続距離 | 約2割減った場合(氷点下前後の平均的なイメージ) | 約4割減った場合(極寒のイメージ) |
|---|---|---|
| 200km | 約160km | 約124km |
| 300km | 約240km | 約186km |
| 400km | 約320km | 約248km |
| 500km | 約400km | 約310km |
※「ふだんの航続距離」に、Recurrentの平均(本来の約80%)と、El Prix 2026の平均(WLTP値の38%減=約62%)を掛けた編集部の計算例です。「ふだんの航続距離」はカタログ値ではなく、自分の車で実際に走れている距離を入れるのが現実的です。実際の減り方は、車種・暖房の使い方・速度・雪道かどうか・バッテリーの劣化具合などで大きく変わります。
この表は、冬に「何km走れるか」を決めるためのものではありません。ポイントは、自分がよく使う距離が、冬の目安の中にどれくらい余裕を持って収まっているかを見ることです。使い方別に考えてみます。
関東など、氷点下になる日が少ない地域で、通勤・買い物中心の人
最低気温が5℃前後の地域では、電費がほとんど変わらなかったという検証もあります。1日の移動が数十kmで、家で充電できる環境なら、冬を理由に使い方を大きく変える必要がないケースが多いと考えられます。気をつけたいのは、寒波が来て一気に冷え込んだ日や、朝一番の冷えた状態での走り出しです。
雪国・寒冷地で、毎日EVを使う人
氷点下の日が続く地域では、冬のあいだはふだんより2割以上少なく見積もっておくのが無難です。ここで効いてくるのが、ヒートポンプの有無と、出発前の準備です。日産の公式FAQによると、リーフのタイマーエアコンは、充電ケーブルをつないだ状態なら家や充電器の電気を使うため、走行用のバッテリーを消費しません。出発前に車内とバッテリーを温めておけば、走り出してからの電気の使い方がぐっと楽になります(機能の有無や動き方は車種によって違うので、取扱説明書で確認してください)。
冬に、スキー場や帰省で長距離を走る人
高速道路を長く走り、しかも山間部の寒い場所に向かう使い方は、冬のEVにとってもっとも条件が厳しい部類です。行き先が寒ければ、到着後の充電にも時間がかかりやすくなります。充電スポットの計画は、夏よりも手前、手前で立てる。バッテリーを温める機能がある車なら、急速充電の前に使う。これだけでも、計画どおりに進まないときの焦りはだいぶ減ります。
立ち往生への備えが気になる人
JAFのテストが示すとおり、エアコンだけに頼るのではなく、体を直接温める手段を組み合わせると電気の減りは大きく変わります。JAFは、降雪地域に行く場合は毛布や、電源ソケットで使える暖房器具を車に積んでおくことをすすめています。大雪の予報が出ているときは、残量に余裕を持って出発することも大切です。
冬のEVは「走れなくなる」のではない
冬にEVの航続距離が減るのは、故障でも欠陥でもありません。ガソリン車ならエンジンの熱でまかなえていた暖房を、EVはバッテリーの電気でまかなっている。その分だけ、走れる距離が短くなる、ということです。
冬のEVは、暖房にも電気を使う。ただそれだけのことを知っていれば、慌てる場面はずっと少なくなります。
寒い朝は、ケーブルをつないだまま車内を温めておく。走り出したら、シートヒーターから先に入れてみる。今年の冬、自分のEVが何℃で何km走れたかをメモしておくと、次の冬からはもう、ネットの「半分になる」という話に振り回されることはありません。
情報源
- Recurrent「How much does EV range drop in winter?」 recurrentauto.com
- EV.com「Study Finds EVs Retain 80% Of Range In Freezing Conditions」 ev.com
- FIA「How do EVs Perform at -32°C? 24 Models Face the Ultimate Winter Test」 fia.com
- Business Motoring「EVs see average range drop 38% in Norwegian winter test」 businessmotoring.co.uk
- EVinfo.net「Lucid Air Grand Touring Wins Longest Range at NAF Winter Test 2026」 evinfo.net
- Electric Cars Report「Polestar 3 wins world’s biggest independent winter range test」 electriccarsreport.com
- 東京電力エナジーパートナー EV DAYS「【EVドライブ検証】冬と夏、電費の差はどれくらい?」 evdays.tepco.co.jp
- EVsmartブログ「電気自動車は冬に走行距離が半分になる?」 blog.evsmart.net
- NEDO「高効率な省エネ暖房技術 車載用ヒートポンプを完成」 nedo.go.jp
- ビジネス+IT「PTCヒーターか?ヒートポンプか? 電気自動車で『暖房競争』が起きるワケ」 sbbit.jp
- ENECHANGE EV充電「電気自動車(EV)は寒さに弱い?」 ev-charge-enechange.jp
- JAF「大雪による車の立ち往生~危険性と防寒対策を検証~(JAFユーザーテスト)」 jaf.or.jp
- くるまのニュース「大雪立ち往生でEVのバッテリーはどの程度”もつ”のか?」 kuruma-news.jp
- Car Watch「JAF、大雪時の立ち往生を再現して電気自動車の防寒対策を検証」 car.watch.impress.co.jp
- JAF Mate Online「電気自動車(EV)は冬に弱い? 実際どうなのか、モータージャーナリスト・岡本幸一郎さんが雪国でリアル試乗!」 jafmate.jp
- 日産 FAQ「リーフ(2017/10~・ZE1型) タイマーエアコンの作動条件を教えて。」 faq2.nissan.co.jp

