
雪道の運転について調べると、どこを見ても「急発進・急ブレーキ・急ハンドルをしない」と書かれています。言われればその通りですが、ではアクセルはどのくらい踏めばいいのか、ブレーキはいつ踏み始めればいいのか、カーブではどうすればいいのかまでは、なかなか書かれていません。この記事では、NEXCO・JAF・自治体などの呼びかけをもとに、「急」をなくすための具体的な操作を、発進・ブレーキ・カーブ・下り坂の場面ごとに整理します。冬に雪の地域へ出かける予定がある人や、雪道を年に数回しか走らない人に向けた内容です。
「急」がいけない理由は、タイヤの力に上限があるから
タイヤが路面をつかむ力には上限があります。車はその限られた力を使って「進む」「止まる」「曲がる」をしています。乾いた路面ではこの上限がとても大きいので、少し乱暴に操作しても余裕があります。ところが雪や氷の上では、上限そのものがぐっと小さくなります。
「急」のつく操作は、その小さな上限を一瞬で超えてしまう操作です。アクセルを一気に踏めばタイヤは空回りし、ブレーキを一気に踏めばタイヤは止まったまま滑り、ハンドルを一気に切れば車は向きを変えずにまっすぐ滑っていきます。
雪道の運転のコツは、上手な操作を覚えることではなく、タイヤの力の上限を超えない操作に切り替えることです。
場面ごとにまとめると、次のようになります。
| 場面 | やること | 避けたいこと |
|---|---|---|
| 発進 | AT車はクリープでじわりと動き出す。MT車は2速で。スノーモードがあれば使う | アクセルを一気に踏む |
| ブレーキ | 早めに、やさしく踏み始める。ABSが作動したら踏み続ける | 止まりたい場所の直前で強く踏む |
| カーブ | カーブに入る前に減速を終える。ハンドルはゆっくり切る | 曲がりながらブレーキを踏む |
| 下り坂 | エンジンブレーキを併用する | フットブレーキだけで速度を抑える |
| 走行中ずっと | いつもより速度を控え、車間距離を広くとる | 前の車と同じ感覚で詰める |
※NEXCO西日本の雪道走行の注意点、新潟県の冬道走行の呼びかけ、北海道内の警察署の注意喚起などをもとに編集部で整理。
発進:アクセルを踏む前に、クリープで動き出す
NEXCO西日本は、AT車はクリープ現象を利用してじわりと発進し、MT車は2速で発進するよう呼びかけています。どちらも、タイヤに伝わる力を小さくして空回りを防ぐための方法です。
AT車なら、ブレーキペダルから足をそっと離し、車が自分の力で動き出すのを待ってから、アクセルをほんの少しずつ足していきます。タイヤが空回りする音がしたり、メーターに滑りを抑える機能の表示ランプが点滅したりしたら、いったんアクセルを戻します。
車によっては「スノーモード」などの名前で、滑りやすい路面での発進を助けるモードが付いています。たとえばトヨタのGR86の取扱説明書では、スノーモードを「雪道など、すべりやすい路面での発進・走行に適しています」と説明し、すべり防止のため1速には入らないとしています。1速より高いギアで発進することで、タイヤに伝わる力を小さくする仕組みです。自分の車にこうしたモードがあるかどうかは、出かける前に取扱説明書で確認しておくと安心です。
坂道の途中で止まってしまい、タイヤが空回りするときも同じです。ホンダの冬道の運転の解説では、アクセルを強く踏むとタイヤが空回りして動けなくなったり滑ったりするとして、ゆっくり丁寧に踏むことを勧めています。
ブレーキ:強く踏んでも、止まる距離はほとんど縮まらない
「ブレーキをやさしく踏んだら、止まるのが遅くなるのでは?」
雪道の運転でいちばん迷うのが、ここだと思います。乾いた路面なら、強く踏むほど早く止まれます。ところが雪道では、タイヤの力の上限が小さいので、強く踏んでもその上限より強くは止まれません。強く踏んだ分は、タイヤがロックしたり、ABSが作動したりするだけで、止まる距離はほとんど縮まらないのです。
そこで大事になるのが、ブレーキを踏み始める「時点の速度」です。止まる距離は、おおまかに速度の2乗に比例して伸びます。JAFが2017年に行ったテストでは、新品のスタッドレスタイヤを付けた車が圧雪路で時速40kmから急ブレーキをかけて止まるまでに17.3mかかりました。この結果をもとに、同じ路面・同じタイヤで速度だけを変えたときの距離を計算すると、次のようになります。
| ブレーキを踏んだときの速度 | ブレーキが効いてから止まるまで | 危険に気づいてから1秒後に踏んだ場合の合計 |
|---|---|---|
| 時速20km | 約4.3m | 約9.9m |
| 時速30km | 約9.7m | 約18.1m |
| 時速40km | 17.3m(JAFのテスト結果) | 約28.4m |
| 時速50km | 約27.0m | 約40.9m |
※時速40kmの17.3mはJAFのテスト結果(くるまのニュースなどが報道)。ほかの速度は、止まる距離が速度の2乗に比例するという仮定に基づく計算例です(例:時速30kmは17.3×(30÷40)²≒9.7m)。「1秒後」は、気づいてから踏むまでの1秒間に進む距離(時速40kmなら約11.1m)を足したもの。実際の距離は路面・タイヤ・車の状態で大きく変わり、凍った路面ではさらに長くなります。
時速40kmから30kmに落とすだけで、気づいてから止まるまでの距離は約28mから約18mになります。差の約10mは、乗用車2台分以上の長さです。
雪道で止まる距離を決めるのは、ブレーキの踏み方よりも、踏み始めたときの速度です。
だからこそ、新潟県が呼びかけるように「やさしいブレーキで速度を調節」しながら、止まりたい場所よりずっと手前から減速を始めるのが基本になります。北海道内の警察署も、夏場より十分な車間距離をとり、早めのブレーキを心がけるよう呼びかけています。
ABSが作動したら、足を離さない
雪道で強めにブレーキを踏むと、「ガガガ」という音とともにペダルが小刻みに震えることがあります。これはタイヤがロックしないようにブレーキの力を自動で緩めたり強めたりするABSの作動で、故障ではありません。国土交通省の自動車アセスメントの解説では、ABS付きの車は、ペダルが振動して音がしても、そのまま強く踏み続けるのが正しい使い方としています。驚いて足を緩めると、そのぶん止まるのが遅れます。
一方で同じ解説は、雪道や砂利道ではABSがあっても止まる距離が長くなることがある、ともしています。ABSは止まる距離を縮める装置ではなく、止まるまでの間にハンドルで避けられる状態を保つための装置、と考えておくのが正確です。
カーブ:曲がっている最中にブレーキを踏まない
カーブで大切なのは、減速を「カーブに入る前」に終わらせておくことです。NEXCO西日本は、カーブの手前で減速し、ブレーキをかけながら曲がらないよう呼びかけています。曲がりながらブレーキを踏むと、「曲がる」と「止まる」でタイヤの力を同時に使うことになり、上限を超えやすくなるからです。
カーブの中では、ハンドルをゆっくり切り、アクセルは一定か、ごくわずかに踏む程度にします。思ったより曲がらないと感じても、ハンドルをさらに切り足すのは逆効果になりがちです。タイヤが滑っているときにハンドルを切り足しても、車は曲がらずに滑り続けます。
見落としやすいのは、急なカーブより、緩いカーブのほうです。急なカーブなら誰でも手前で速度を落としますが、緩いカーブは乾いた路面と同じ感覚のまま入ってしまいがちです。カーブの先が橋の上や日陰になっている場所では、路面が凍っていることもあります。凍りやすい場所の見分け方は、路面凍結は気温3℃からで詳しく整理しています。
下り坂:エンジンブレーキを先に使う
NEXCO西日本は、下り坂ではフットブレーキだけに頼るとタイヤがロックして止まる力を失うおそれがあるとして、エンジンブレーキの併用を呼びかけています。
AT車やハイブリッド車では、シフトを「B」「S」「L」などのレンジに入れたり、パドルシフトで段を下げたりすると、エンジンブレーキ(ハイブリッド車では回生ブレーキを含む減速)が強くなります。呼び方や使い方は車によって違うので、取扱説明書で確認しておきましょう。
ただし、坂を下りながら急にシフトを下げると、それ自体がタイヤへの「急」な力になります。坂に入る前、平らな所でシフトを切り替えておくのが安全です。
自動ブレーキがあっても、雪道では止まりきれないことがある
最近の車の多くには、衝突被害軽減ブレーキ(いわゆる自動ブレーキ)が付いています。ただ、JAFが2017年にスタッドレスタイヤを付けた車で試したところ、圧雪路でも氷の路面でも、時速30kmからでは障害物の手前で止まりきれませんでした。JAFはその後もSNSで、この結果を例に過信しないよう呼びかけています。
自動ブレーキも、使えるのはタイヤの力の範囲までです。止まる距離を短くできるのは、結局のところ、速度を落としておくことと、車間距離を広くとっておくことだけです。
あなたの場合はどう考える?
雪道を走るのは年に数回
いちばん大切なのは、走り出す前に「今日は雪道の運転に切り替える」と決めておくことです。NEXCO西日本も、普段の感覚で運転せず、頭を雪道向けに切り替えるよう呼びかけています。最初の数分は、周りに車がいない場所で、ブレーキをやさしく踏んで止まり方を確かめておくと、その日の路面の滑りやすさがつかめます。
旅行先で、慣れない車(レンタカー)に乗る
スノーモードの有無、エンジンブレーキのレンジの名前、ABSが作動したときの感触は、車ごとに違います。出発前に、シフト周りのスイッチと表示を一通り確認しておきましょう。慣れない車と慣れない道が重なるときほど、速度を控えめにしておく価値があります。
毎日、雪の積もる道を通勤する
慣れてくると、いつもの道ほど速度が戻りがちです。朝の冷え込みが強い日や、昼に溶けた雪が夕方に凍る日は、同じ道でも路面がまったく違います。交差点の手前と、前の車との距離だけは、慣れても縮めないことを決めておくと安心です。
坂の多い地域に住んでいる
上り坂の途中で止まらなくて済むように、前の車が坂を上りきるのを待ってから上り始めるのも一つの方法です。下り坂では、坂に入る前にエンジンブレーキの準備を済ませておきます。
雪道では、ブレーキを踏む前にもう勝負が決まっている
雪道の「急」をなくすというのは、操作をゆっくりにするだけではありません。止まる場所、曲がる場所、下る場所が近づく前に、速度を落とし終えておくことです。ブレーキを踏む瞬間ではなく、その手前の数十メートルで、雪道の安全はほとんど決まっています。
雪の地域へ出かける前の準備はスキー・雪山ドライブの準備、冬タイヤに替える時期は冬タイヤへの交換はいつがいい?で整理しています。
情報源
- NEXCO西日本「雪道走行の注意点」 w-nexco.co.jp
- 新潟県「冬道の安全運転」 pref.niigata.lg.jp
- 国土交通省 自動車アセスメント「ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)」 mlit.go.jp
- トヨタ GR86 取扱説明書「ドライブモードセレクトスイッチ」 manual.toyota.jp
- Honda「冬道ドライブ」Q5・Q6 global.honda
- くるまのニュース「雪道を夏タイヤで走るのは危険! 制動距離はスタッドレスタイヤの約1.7倍という結果に」(JAFのテスト結果) kuruma-news.jp
- くるまのニュース「過信しないで! 雪で車の『緊急ブレーキ』効かない? たったの“時速30キロ”でも衝突! JAFがSNSで注意を呼びかけ」 kuruma-news.jp

