
「避難所は人が多いし、ペットもいる。車のほうが落ち着ける」——大きな地震のあと、そう考えて車で夜を過ごす人は少なくありません。2026年7月28日に熊本県で最大震度7を観測した地震でも、車の中で避難生活を送る人が多く出ました。車中泊避難は、気をつける点さえ知っていれば心強い選択肢です。命に関わるポイントを、優先順に整理します。
先に結論:気をつけるのは「血の流れ」「暑さ寒さと排気ガス」「居場所を伝える」の3つ
車中泊避難で体を壊したり、命を落としたりする原因は、ほぼこの3つに集約されます。
- 血の流れ:狭い車内で同じ姿勢が続き、足に血のかたまりができる(エコノミークラス症候群)。
- 暑さ寒さと排気ガス:夏は熱中症、冬は寒さ。そしてエアコンのためにエンジンをかけ続けたときの一酸化炭素。
- 居場所を伝える:避難所にいないため、食料・情報・健康の見回りが届きにくい。
車中泊避難の怖さは、地震そのものではなく、そのあとの何日かの過ごし方にあります。
熊本で2度、同じことが起きている
2016年の熊本地震では、熊本県の調査で、自宅以外に避難した人の約7割が車中泊を経験していました。理由でいちばん多かったのは「余震が続き、一番安全と思った」です。
この地震で亡くなった人のうち、建物の倒壊など地震で直接亡くなった人は50人。一方、避難生活の疲れや体調の悪化で亡くなった「災害関連死」は225人と、直接の死者の4倍を超えています。地震から1年の時点の報道では、関連死と認められた人のうち38人が車中泊をしていたとされ、エコノミークラス症候群が原因とみられる死亡例もありました。
そして2026年7月の地震では、真夏の避難になりました。停電でエアコンが使えない場所もあり、車中泊中に熱中症で亡くなった人について、災害関連死の可能性が報じられています。熊本県は、車中泊をしている人向けに看護師が健康相談に応じる専用の電話窓口を開きました。
冬の地震なら寒さと排気ガス、夏の地震なら暑さ。季節によって危険の中身が変わることも、知っておきたい点です。
1. エコノミークラス症候群を防ぐ
同じ姿勢で座り続けると、足の静脈の血の流れが悪くなり、血のかたまり(血栓)ができることがあります。それが肺に流れて血管を詰まらせると、息苦しさや胸の痛みが出て、最悪の場合は命に関わります。予防の基本は、次のとおりです。
- かかとの上げ下ろし・ふくらはぎをもむ:座ったままでもできる。時間を決めて、こまめに繰り返す。
- 車の外を歩く:車内で過ごす時間そのものを、できるだけ短くする。
- 水分を控えない:トイレを気にして水を飲まないと、血液が濃くなって血栓ができやすくなる。トイレの心配は、携帯トイレなどの備えで減らせる。
- 足を伸ばして眠る:座席に座ったまま寝るのがいちばん避けたい形。シートを倒し、段差をタオルや荷物で埋めて、足を下げずに伸ばせる寝床を作る。
- 締め付けない服:ベルトやきつい服をゆるめる。
片方の足だけがむくむ、ふくらはぎが痛む・赤くなる、急に息苦しくなる、といった変化があれば、我慢せず救護所や医療機関に相談してください。
2. 暑さ・寒さと、エンジンのかけっぱなし
夏:車内は、エンジンを切るとすぐ暑くなる
真夏の車内は、エンジンを止めて窓を閉めると短い時間で高温になります。避難生活では食事や睡眠が十分にとれず、ふだんより熱中症になりやすい状態です。こまめに水分と塩分をとり、日中は日陰や冷房のある場所で過ごすようにします。消防庁などは、可能なら冷房が使える親戚・知人の家や避難所へ移ることを勧めています。「暑さを車でしのぐ」のは、限界があると考えておくのが安全です。
冬:マフラーの周りが雪でふさがると危ない
寒さをしのぐためにエンジンをかけたまま過ごすとき、注意したいのが一酸化炭素です。JAFのテストでは、車の周りとボンネットまで雪で覆った状態でエンジンをかけると、22分で車内の一酸化炭素濃度が測定器の上限(1000ppm)に達しました。運転席の窓を5cm開けた場合でも、40分を過ぎて800ppmまで上がっています。
一酸化炭素は色もにおいもなく、気づかないうちに意識を失うことがあります。雪の日にエンジンをかけるなら、マフラーの出口とその周りの雪を先に取り除くこと。そして、眠る間はエンジンを止め、毛布や寝袋、使い捨てカイロで寒さをしのぐのが基本です。地震で崩れたがれきや土砂のそばに車を止めるときも、マフラーの出口がふさがれていないか確かめておきましょう。
3. 「車にいる」と、誰かに伝える
車中泊避難のもうひとつの弱点は、支援する側から見えにくいことです。2026年8月に時事通信が全都道府県に行ったアンケートでは、車中泊避難者の支援で「どこに何人いるかの把握」を課題に挙げたのが45道府県、「健康状態や必要な支援の把握」が44都道府県、「支援を届けること」が40府県にのぼりました。日中は片付けで家に戻り、夜だけ車に戻る人も多く、行政からは実態がつかみにくいのです。
国は2024年6月に「在宅・車中泊避難者等の支援の手引き」を自治体向けに示し、熊本市は2026年4月に車中泊避難者の支援ガイドラインを公表しました。ただ、共同通信が2026年2月に主要87市区を調べたところ、車中泊のための避難場所を決めていたのは28市(32%)にとどまります。
だからこそ、車中泊を選んだら、近くの避難所の受付などに「車で避難している」と伝えておくことが大切です。食料や水、情報、健康の見回りを受けられるかどうかが、ここで変わります。自分の住む市町村が車中泊の場所を決めているかは、ふだんのうちに市町村の防災のページで確かめておけます。
長く続けないほうがいい人もいる
車中泊避難は、短い期間をしのぐ方法として考えるのが基本です。次のような場合は、早めに避難所や知人宅、宿泊施設などへの移動も考えておきたいところです。
- 高齢の人・妊娠中の人・足の手術や病気をしたことがある人:血栓ができやすい。JAFも、高齢者や妊婦は車中泊を避けるよう呼びかけている。
- 小さな子どもがいる:暑さ寒さの影響を受けやすく、狭い車内で体を動かしにくい。
- ペットと一緒:車中泊を選ぶ大きな理由のひとつ。続けるなら、人の体のための対策(運動・水分・足を伸ばす寝床)を後回しにしない。
- 車が1台で、家族が多い:全員が足を伸ばして眠れないなら、何人かは別の場所で眠る分け方も考える。
備えは「積んでおく物」と「燃料」から
車中泊避難を少しでも楽にするには、地震の前の備えが効きます。車に積んでおきたい防災グッズ、燃料をどのくらいの残量で入れておくか、車を電源として使えるかは、それぞれ別の記事で詳しく整理しています(下の関連記事から読めます)。走っている最中に揺れたときの動き方も、合わせて確認しておくと安心です。
車は、揺れから身を守る場所にはなっても、何日も暮らす場所にはなりにくい。「短く・動いて・伝える」が、車中泊避難の合言葉です。
【更新 2026年10月15日】内容を最新の情報に合わせて全面的に見直しました。
情報源
- 熊本日日新聞「熊本県で震度7、M7・1 建物倒壊も、津波注意報」(2026年7月28日) kumanichi.com
- 熊本日日新聞(共同通信)「猛暑の避難、熱中症に注意 エコノミー症候群懸念も」(2026年7月29日) kumanichi.com
- 熊本日日新聞「車中泊の健康相談を 熊本県が専用ダイヤル開設」 kumanichi.com
- 時事ドットコム「車中泊避難者、支援に壁 所在把握、45道府県が『課題』」(2026年8月30日) jiji.com
- 秋田魁新報(共同通信)「車中泊の避難場所確保は3割 主要87市区で28市のみ」(2026年2月28日) sakigake.jp
- 内閣府 防災情報「在宅・車中泊避難者等の支援の手引き」(2024年6月) bousai.go.jp
- 熊本市「車中泊避難者支援ガイドライン」 city.kumamoto.jp
- ウェザーニュース「熊本地震から今年で10年 死者の8割を占めた災害関連死」(2026年4月) weathernews.jp
- TEAM防災ジャパン「震災関連死38人が車中泊 熊本地震1年」 bosaijapan.jp
- JAF Mate Online「災害時、車中泊避難の際の注意点とは?」(2024年1月23日) jafmate.jp
- 乗りものニュース「大雪でクルマ立ち往生、まずすべきことは」(JAFテストの紹介) trafficnews.jp

