
「もう少し踏めば、出られるはず」——雪にはまってタイヤが空回りしたとき、多くの人が最初にやってしまうのが、アクセルをさらに踏むことです。けれどJAFや自動車メーカーの案内は、そろって逆のことを勧めています。空回りを続けるほど、タイヤの下の雪は溶けて固まり、かえって抜け出しにくくなるからです。この記事では、JAFの公式Q&Aとトヨタ・ホンダの取扱説明書の記載をもとに、雪でスタックしたときに試す順番と、やってはいけないこと、助けを呼ぶ判断の目安を整理します。
最初にやることは「踏むのをやめる」
スタックとは、雪やぬかるみにタイヤがはまり、アクセルを踏んでもタイヤが空回りするだけで、前にも後ろにも進めなくなる状態のことです。新雪に突っ込んだときや、雪の塊に乗り上げたときに起こりやすいとされています。
このとき、アクセルを踏み続けて抜け出そうとすると、タイヤと雪がこすれて熱が出て、雪が溶けます。溶けた雪はまた冷えて、タイヤの下につるつるの面を作ります。報道で紹介されたJAFの説明でも、踏み続けると摩擦で雪が溶けて状況がさらに悪くなると指摘されています。トヨタの取扱説明書も、タイヤを空転させすぎたり、必要以上にアクセルを踏んだりしないよう注意しており、トランスミッションなどの部品を傷めるおそれがあると書いています。
空回りしたら、もう一度踏む前に、いったん足を離す。抜け出す作業はそこから始まります。
抜け出すときに試す順番
JAFの公式Q&Aは、スタックしたときの対処を、おおむね次の順番で紹介しています。下にいくほど準備や人手が要るので、上から順に試していくイメージです。
| 順番 | やること | 気をつけること |
|---|---|---|
| 1. 周りに知らせる | ハザードランプを点ける。安全に外に出られるなら、三角表示板を車の後ろに置く | 後ろから来る車に、止まっていることを早く知らせる |
| 2. 雪をかき出す | タイヤの前後の雪をスコップでかき出す。スコップがなければ足で踏み固める | 駆動輪(エンジンの力がかかるタイヤ)の周りを優先する |
| 3. 小刻みに前後させる | アクセルを強く踏まず、前進と後退を少しずつ繰り返して、周りの雪を踏み固める | シフトを切り替えるときはアクセルから足を離しておく |
| 4. 滑り止めを敷く | 空回りするタイヤの下に、脱出用のプレートや砂、丈夫な布、タイヤチェーンを差し込む | 動き出した瞬間に車が飛び出すことがある。前後に人がいないことを確かめる |
| 5. 人や車の手を借りる | 押してもらう、ほかの車にけん引してもらう、ロードサービスを呼ぶ | けん引は、適切な装備と知識があるときに限る |
※JAF「雪道でスタックした場合、自力で動かす方法とは?」の内容を整理したもの。車の操作の細かな手順は車種によって違うので、取扱説明書でも確認してください。
トヨタの取扱説明書(プリウス)にも、同じ考え方の手順が載っています。パーキングブレーキをかけてシフトをPにし、いったんシステムを止めてから、前輪の周りの雪や土を取り除き、前輪の下に木や石などを置く。そのうえで再び動かし、DかRに入れて慎重にアクセルを踏む、という流れです。それでも出られないときは、けん引による救援が必要としています。
手順の3で大事なのは「少しずつ」という点です。一度で抜け出そうと勢いをつけるのではなく、前に数十センチ、後ろに数十センチと動かして、タイヤが通る道を自分で固めていく感覚です。
滑らないための機能を、あえて切ると出やすくなることがある
「横すべりを防ぐ機能が付いているのに、それを切ったほうがいいの?」
意外に思えますが、メーカーの取扱説明書にはそう書かれています。ホンダの取扱説明書は、新雪やぬかるみにはまったときは、VSA(横すべりを抑える装置)をOFFにすると脱出に効果的なことがある、と案内しています。トヨタの取扱説明書も、脱出しにくい場合はTRC(タイヤの空転を抑える装置)をOFFにするよう書いています。
理由は、この装置の働き方にあります。ふだんの走行では、タイヤが空回りしたことを車が感じ取ると、エンジンの力を自動で弱めたり、ブレーキをかけたりして、空回りを止めます。乾いた道や薄い雪なら、これで車は安定します。ところが深い雪にはまっているときは、少し空回りさせながら雪を押しのけ、タイヤの下を固めていく必要があります。装置がそのたびに力を弱めてしまうと、前後に揺らして抜け出す動きそのものができなくなるのです。ホンダの説明でも、OFFにするとエンジンの力を抑える働きが止まり、低い速度で駆動輪が回りやすくなるとされています。
ただし、両社とも、OFFのまま走り続けることは勧めていません。ホンダは脱出したらすみやかにONに戻すよう書いており、エンジン(またはシステム)をかけ直すと自動でONに戻る車種もあります。スイッチの場所や、短く押すか長く押すかといった操作は車種ごとに違うので、雪の季節の前に、自分の車の取扱説明書で一度確かめておくと安心です。
敷くもの・押すとき・引っぱるときの注意
脱出プレート・砂・布・チェーン
JAFは、空回りする駆動輪と雪の間に、進みたい方向から奥まで脱出プレートを差し込む方法を紹介しています。プレートがない緊急時は、丈夫な布やタイヤチェーンで代用する方法もあるとしています。道路わきに滑り止めの砂の箱があれば、駆動輪の周りにまくのも一つの方法です。
どれも、タイヤがつかんだ瞬間に車が急に動き出すことがあります。トヨタの取扱説明書も、脱出のときに車が前や後ろに飛び出すおそれがあるとして、周りに人や物がないことを確かめるよう注意しています。敷いた人がそのまま車のすぐ前や後ろに立っていないこと、動き出したらすぐに止められる速さでアクセルを踏むことが大切です。
押してもらう
周りに人がいれば、押してもらうのも有効な方法として紹介されています。このときも、押す人が滑って転んだり、車が急に動いて巻き込まれたりしないよう、合図を決めてからゆっくり発進します。
ほかの車に引っぱってもらう
JAFは、ほかの車にけん引してもらう場合は、双方の取扱説明書を確認し、適切な装備と知識があるときに限るとしています。車の重さに合った専用のロープを、取扱説明書で決められたけん引用のフックに確実に取り付けること、ふつうのロープは切れるおそれがあること、引く側は急に発進せず、ゆっくり力をかけることも挙げています。慣れていない人どうしで無理に引っぱるより、ロードサービスを待つほうが安全な場面も多いはずです。
抜け出せないまま待つなら、マフラーの周りを見る
自力で出られず、ロードサービスや天候の回復を待つことになったとき、いちばん気をつけたいのが排気ガスです。JAFは、積もった雪でマフラーの周りがふさがると、排気ガスが車内に入り込み、一酸化炭素中毒になるおそれがあると注意しています。一酸化炭素は色もにおいもないため、気づきにくいのが怖いところです。
JAFの案内では、待つ間はエンジンを切ることを基本とし、やむを得ず暖房を使うときは、先にマフラーの周りの雪を取り除き、こまめに確かめるよう勧めています。窓を開けるだけでは防げない場合があるとも書いています。吹雪のときは、ドアが短時間で雪にふさがれることがあるので、風下側のドアを使うこと、猛吹雪の中で無理に外へ出ないことも挙げられています。
長い時間の立ち往生になったときの過ごし方は、雪道で立ち往生したときの記事で詳しく整理しています。
助けを呼ぶのは「早め」でいい
JAFは、自力での脱出が難しいときや、作業が危ないと感じるときは、早めにロードサービスを呼ぶよう勧めています。スマートフォンのアプリやウェブから頼むと、GPSで今いる場所を伝えられるので、吹雪で場所を説明しにくいときにも便利だとしています。
費用の目安として、JAFの公式Q&Aでは、雪道でのスタックの救出は、非会員の場合2万1,700円(昼間の一般道で、簡単な引き出し作業をした場合)と案内されています。会員なら、原則として無料の範囲で対応してもらえます(無料の範囲を超える作業や部品・燃料の代金は別です)。自動車保険のロードサービスでも、スタックからの引き出しに対応していることがあるので、保険証券で確かめておきましょう。JAFと保険のロードサービスの違いは、こちらの記事で比べています。
空回りを長く続けると、雪が固まって抜け出しにくくなるだけでなく、車の部品にも負担がかかります。何度か試して少しも前に進まないなら、それ以上ねばらず、助けを呼ぶほうに切り替えるのが結果的に早く済むことも多いはずです。
はまる前にできること
JAFは、雪道を走る前に準備しておきたいものとして、スタッドレスタイヤを履いていてもタイヤチェーンとジャッキは必要だとしています。できれば用意したいものとしては、スコップ、滑り止めの砂、けん引ロープ(太く、金具のしっかりしたもの)、軍手・長靴、懐中電灯などを挙げています。スタックしたときに実際に手を動かすのは、ほとんどがこの道具です。
また、JAFが北海道で行った坂道のテストでは、勾配20%の雪の坂で、平らなところから勢いをつけて上れたのはスタッドレスタイヤだけで、坂の途中でいったん止まってから発進すると、スタッドレスタイヤでも上れませんでした。雪の坂では、途中で止まらずに済むよう前の車との間をあけておくことが、はまらないための工夫になります。雪道での操作の考え方は、雪道の運転の記事にまとめています。
はまった場所別の考え方
朝、駐車場で新雪に埋まっていた
いちばん自力で抜け出しやすい場面です。まずタイヤの前後とマフラーの周りの雪をかき出し、進みたい方向の雪もある程度どけておきます。そのうえで、小刻みに前後させて道を固めていきます。急いでいても、最初から強く踏まないことが近道です。
雪の坂道の途中で止まってしまった
上り坂の途中からの発進は、スタッドレスタイヤでも難しいことがあります。無理に上ろうとして空回りを続けるより、安全を確かめたうえで、いったん平らなところまで下がってから勢いをつけ直すか、チェーンを付けることを考えます。後ろに車が続いているときは、ハザードランプで早めに知らせましょう。
吹雪の中、交通量の多い道で動けなくなった
車の外での作業そのものが危ない場面です。後ろから来る車にはねられたり、視界の悪さで作業中の人が見えなかったりするおそれがあります。無理に外に出ず、早めにロードサービスや道路の管理者に連絡し、待つ間はマフラーの周りがふさがっていないかに気を配ります。
道具を何も積んでいなかった
スコップがなければ足で雪を踏み固める、丈夫な布やチェーンを敷くといった代わりの方法もありますが、できることは限られます。何度か試しても動かないなら、ねばらずに助けを呼びましょう。抜け出せたら、次の雪の前にスコップと砂、けん引ロープを積んでおくと、同じ場面で慌てずに済みます。
踏むより先に、掘る
雪にはまったとき、アクセルを踏む力はほとんど役に立ちません。役に立つのは、タイヤの前の雪をどける手と、タイヤの下に何かを敷く工夫、そして「もう無理だ」と早めに判断して助けを呼ぶことです。空回りの音が聞こえたら、足を離して、まず車の外の雪を見る。その順番を覚えておくだけで、冬のスタックはずっと軽く済みます。
情報源
- JAF「雪道でスタックした場合、自力で動かす方法とは?」 jaf.or.jp
- JAF「雪道を走る前に準備しておきたいものとは?」 jaf.or.jp
- JAF「雪道での登坂テスト(JAFユーザーテスト)」 jaf.or.jp
- トヨタ「プリウス 取扱説明書:スタックしたときは」 manual.toyota.jp
- ホンダ「インサイト 取扱説明書:VSA OFF」 honda.co.jp
- くるまのニュース「突然のスタックに焦り! 雪道で立ち往生に遭遇したらどうやって抜け出せばいい?」 kuruma-news.jp

