
「まだ明るいし、ライトはもう少しあとでいいか」——夕方の運転で、そう思ったことがある人は多いはずです。ところが交通事故の統計を見ると、死亡事故が一日のうちで最も集中しやすいのは、真っ暗な深夜ではなく、この「まだ明るい気がする」時間帯です。しかも、その危険は秋から冬にかけて大きくなります。9月も終わりに近づき、日の入りが一日ごとに早くなっていく今の時期に知っておきたい、夕暮れ時の事故の実態を統計から整理します。
危ないのは「日没の前後1時間」、しかも10〜12月
警察庁は、日の入り時刻の前後1時間(合わせて2時間)を「薄暮(はくぼ)時間帯」と呼び、この時間帯の事故に特に注意を呼びかけています。理由は、統計にはっきり表れているからです。
内閣府の交通安全白書(令和元年版)が紹介している警察庁の分析では、2014〜2018年の5年間の死亡事故を時間帯別に見ると、17時台が1,272件、18時台が1,179件、19時台が1,136件と、夕方から夜にかけての時間帯が上位に並びました。警察庁が令和3〜7年(2021〜2025年)の5年間を対象にまとめた最新の資料でも、死亡事故は日の入り時刻と重なる17時台から19時台に多く発生しているとされています。期間を変えても、傾向は変わっていません。
季節でも差があります。同じ白書によると、薄暮時間帯の死亡事故を月別に見ると、10月が306件、11月が316件、12月が325件と、秋から年末にかけて多くなっていました。JAFの機関誌JAF Mateが紹介している2017〜2021年の警察庁の分析でも、薄暮時間帯の死亡事故は10月から12月にかけて最も多いとされています。
一年でいちばん気をつけたい時間は、「秋から冬の、日が沈む前後」です。
日の入りは、2か月で1時間早くなる
なぜ秋から増えるのかを考えるうえで、まず押さえておきたいのが日の入り時刻の変化です。国立天文台の暦計算室が公表している2026年の東京の日の入り時刻を並べると、次のようになります。
| 日付(2026年) | 東京の日の入り | 薄暮時間帯(日の入りの前後1時間) |
|---|---|---|
| 6月30日 | 19時01分 | 18時01分〜20時01分 |
| 9月28日 | 17時30分 | 16時30分〜18時30分 |
| 10月28日 | 16時51分 | 15時51分〜17時51分 |
| 11月27日 | 16時29分 | 15時29分〜17時29分 |
| 12月7日 | 16時28分 | 15時28分〜17時28分 |
※国立天文台暦計算室「令和8年(2026)暦要項 東京の日出入」より作成。薄暮時間帯の欄は、日の入り時刻の前後1時間を計算したもの。日の入り時刻は地域によって異なります。
9月28日の17時30分から、11月27日の16時29分まで、わずか2か月で日の入りはおよそ1時間早くなります。夏至のころ(6月末の19時01分)と比べると、12月上旬の日の入りは2時間半以上も早い計算です。
ここで表の右の列を見てください。夏は18時〜20時だった薄暮時間帯が、11月末には15時半〜17時半に移動しています。多くの人が仕事や学校を終えて家に向かう時間、夕飯の買い物に出る時間、子どもを迎えに行く時間が、ちょうどこの枠の中に入ってきます。暮らしの時間はほとんど変わらないのに、暗くなる時間のほうが夕方の人の動きに重なってくる。これが、秋から冬に夕暮れの事故が増える大きな背景です。
北海道のデータに見える「帰り道」の変化
このことがはっきり表れているデータがあります。北海道警察が2025年10月に公表した資料では、2020〜2024年の5年間に道内で起きた、車と歩行者・自転車の死亡・重傷事故を、車を運転していた人の移動目的別・時間帯別に集計しています。
| 運転していた人の移動目的 | 16〜18時の件数(7〜9月) | 16〜18時の件数(10〜12月) |
|---|---|---|
| 通勤 | 22件 | 79件(約3.6倍) |
| 買物 | 28件 | 64件(約2.3倍) |
| 業務 | 11件 | 21件(約1.9倍) |
※北海道警察本部交通企画課「薄暮時間帯(10〜12月)の交通事故実態について(過去5か年死亡・重傷事故)」(令和7年10月1日)のグラフの数値より。倍率は編集部で計算。北海道のデータであり、日の入り時刻や気候が異なる他の地域にそのまま当てはまるとは限りません。
同じ16〜18時という時間でも、夏と秋冬では件数がまるで違います。特に通勤では、7〜9月の22件に対して10〜12月は79件でした。時間帯は同じでも、夏のこの時間はまだ明るく、秋冬は日没前後にかかる。その差がそのまま数字に出ていると読めます。同じ資料では、日没後1時間に起きた横断中の歩行者の死亡・重傷事故も、7〜9月の29件に対して10〜12月は82件(約2.8倍)と大きく増えていました。
「夜のほうが暗いのに、なぜ夕方が危ないの?」
ここまで読んで、引っかかった人もいるかもしれません。暗さでいえば、夕暮れより夜中のほうがずっと暗いはずです。
これを考えるときに大事なのが、「1時間あたり」で比べることです。薄暮時間帯は1日のうち2時間しかありません。それなのに死亡事故が集中しているので、時間の長さをそろえて比べると差がよりはっきりします。交通安全白書が紹介している2014〜2018年の分析では、車と歩行者の死亡事故を1時間あたりの件数に直すと、次のようになっていました。
| 時間帯 | 「自動車対歩行者」の死亡事故(1時間あたりの件数) | 薄暮時間帯との比較 |
|---|---|---|
| 昼間(薄暮時間帯を除く) | 162.7件 | 薄暮時間帯は約4倍 |
| 夜間(薄暮時間帯を除く) | 306.2件 | 薄暮時間帯は約2倍 |
| 薄暮時間帯(日没の前後1時間) | 643.5件 | - |
※内閣府「令和元年版交通安全白書」特集「薄暮時間帯の交通事故防止について」(2014〜2018年の5年間の合計を1時間あたりに換算した値)より。比較の倍率は編集部で計算(643.5÷162.7≒4.0、643.5÷306.2≒2.1)。
夜間よりも、薄暮時間帯のほうが1時間あたりで約2倍多い。JAF Mateが紹介している2017〜2021年の分析でも、薄暮時間帯の「自動車対歩行者」の死亡事故は、1時間あたりで昼間の約3.6倍、夜間の約2倍とされていて、期間が変わっても同じ傾向です。
夜のほうが暗いのに、夕暮れのほうが危ない。この一見矛盾した結果には、いくつかの理由が重なっていると考えられています。
一つめは、「見えにくくなっているのに、まだ見えている気がする」ことです。真っ暗な夜なら、ドライバーも歩行者も「暗い」とわかっているので、ライトをつけ、慎重になります。ところが夕暮れは、空がまだ明るく、周りもなんとなく見えています。JAF Mateの記事では、人の目は明るいところでは色やコントラストをはっきり見分けられる一方、暗いところでは色を判別できなくなること、そして薄暗いところで極端に視力が落ちる人がいることが紹介されています。見え方は少しずつ落ちていくので、本人はその変化に気づきにくいのです。
二つめは、ライトをつけるのが遅れやすいことです。周りが見えているうちはライトをつけない車が混ざり、その車は、歩行者や他の車からも見つけてもらいにくくなります。
三つめは、先ほどの日の入り時刻の表のとおり、人と車の動きが多い時間帯と重なることです。帰宅、買い物、送迎で、歩く人も運転する人も増える時間に、見えにくさがやってきます。
夜間は暗いぶん、みんなが警戒している。薄暮は、見えにくさと油断と人の多さが同時にそろう。「暗さ」だけでは危なさは決まらない、ということです。
歩行者は、ドライバーが思うより「近づかないと見えない」
薄暮時間帯の事故で特に多いのが、車と歩行者の事故です。JAF Mateが紹介している2017〜2021年の分析では、薄暮時間帯の「自動車対歩行者」の死亡事故のうち86%が歩行者の横断中に起きていて、そのうち76%は横断歩道以外の場所でした。警察庁の最新の資料(令和3〜7年)でも、横断中が約8割、そのうち横断歩道以外が約7割とされていて、傾向は一致しています。
横断歩道のない場所を渡る人は、ドライバーにとっては「来ると思っていない場所」から現れます。そこに見えにくさが重なると、気づくのがさらに遅れます。
では、暗くなった道で歩行者はどれくらい手前から見えるのでしょうか。JAFは2022年に、模擬市街地の横断歩道にさまざまな色の服を着せたマネキンを立て、ロービームで時速20kmで近づいたとき、どこで人だと認識できたかを調べています(夜間のテストで、薄暮時間帯そのものの条件ではありません)。
| 歩行者の服装 | 人だと認識できた距離(ロービーム) | 時速40kmなら、その距離を走り切るまで(計算例) |
|---|---|---|
| 黒 | 27.6m | 約2.5秒 |
| 青 | 27.6m | 約2.5秒 |
| 黄 | 31.0m | 約2.8秒 |
| 白 | 37.6m | 約3.4秒 |
| 黒+反射材 | 42.6m | 約3.8秒 |
| JAFの制服(上下に反射材) | 約70m | 約6.3〜6.4秒 |
※認識できた距離は、JAFのテスト結果(2022年3月公表)を紹介したMerkmal・くるまのニュースの記事より(JAF制服はMerkmalで71.3m、くるまのニュースで70mと表記されているため「約70m」とした)。右の列は、時速40km(秒速約11.1m)で一定の速さのまま走ったと仮定した編集部の計算例で、実際の道路では速度・道路の明るさ・天候・見る人の視力などで大きく変わります。
黒い服の人は、ロービームでは27.6m手前まで近づかないと人だと認識されませんでした。時速40kmで走っていれば、そこまで2.5秒ほどです。気づいてからブレーキを踏み、車が止まるまでにはさらに時間と距離が必要なので、2.5秒という余裕がどれほど短いかは想像がつくと思います。一方で、同じ黒い服でも反射材をつけると42.6mに、上下に反射材がついたJAFの制服では約70mにまで伸びていました。
このテストは夜間の条件ですが、薄暮時間帯には「周りがまだ見えている気がする」ぶん、ドライバーがこの見えにくさを実感しにくい、という点も覚えておきたいところです。
自分の夕方に当てはめてみる
「夕方は危ない」とひとくくりにしても、気をつける場面は人によって違います。運転するタイミング別に、どこに注意が向くと良さそうかを整理しておきます。
平日の帰宅で、17〜18時台に運転する人
9月の終わりには18時半ごろまでだった薄暮時間帯が、11月末には17時半ごろまでに前倒しになります。つまり、夏と同じ時間に会社を出ても、秋が深まるにつれて、帰り道はより暗い時間帯に入っていきます。北海道のデータで通勤中の事故が秋冬に大きく増えていたのは、まさにこのパターンです。「いつもの道、いつもの時間」でも、季節によって見え方は別物になると考えておくのが良さそうです。毎日同じ道を走る人ほど、慣れで速度が出やすいことにも気をつけたいところです。
買い物・送迎で、夕方の住宅街や店の周りを走る人
スーパーやドラッグストアの周り、駅前、学校や習い事の送迎先は、夕方に人の出入りが多い場所です。駐車場から道路に出るとき、車の間から人が出てくるとき、横断歩道のない場所を渡る人がいるとき。北海道のデータでも、買い物目的の運転中の事故は、秋冬の16〜18時に約2.3倍に増えていました。店の近くでは「人が出てくるかもしれない」前提で速度を落とす、というのが一般的な考え方です。
家族に、夕方に歩いたり自転車に乗ったりする人がいる人
自分が運転する側でなくても、家族が夕方に歩く、自転車に乗る、という家庭は多いはずです。JAFのテストが示すとおり、歩行者の側からは「車のライトが見えているから、向こうからも見えているはず」と思いがちですが、実際にはドライバーから見えていないことがあります。秋の全国交通安全運動(2026年は9月21〜30日)でも、全国重点の最初に「歩行者の安全確保と反射材用品の着用促進」が掲げられています。靴やカバン、上着に反射材をつける、明るい色の服を選ぶ、といった工夫を家族で話題にしておくと、運転する側の安心にもつながります。
ドライバーが今日からできること
夕暮れの危なさの中心は、「見えにくくなっていることに気づきにくい」ことでした。だからこそ、感覚に頼らず、先回りして行動を決めておくのが効果的です。
- ライトは「暗くなったら」ではなく「早めに」つける。2026年の秋の全国交通安全運動でも「夕暮れ時の早めのライト点灯」が全国重点に挙げられていて、JAFは日没の30分前からの点灯を呼びかけています。ライトは自分が見るためだけでなく、周りに自分の存在を知らせるためのものでもあります。
- 日の入り時刻を、ときどき確かめる。天気予報やスマートフォンの天気アプリで、今日の日の入りが何時かを見る習慣をつけると、「今は薄暮時間帯だ」と意識しやすくなります。
- 夕方は速度をひと呼吸ぶん落とす。先ほどの計算例のとおり、見えてから通り過ぎるまでの時間は数秒しかありません。速度を落とせば、その数秒が伸びます。
- 横断歩道以外から人が出てくる前提で走る。薄暮時間帯の歩行者の事故の多くは、横断歩道のない場所での横断中に起きています。
- フロントガラスとライトの汚れを落としておく。ガラスの油膜や内側の曇り、ヘッドライトの汚れや黄ばみは、暗くなりかけの時間帯の見えにくさをさらに悪くします。ワイパーゴムが劣化して拭きムラが出ている場合も同じです。
ライトをつけるのは、暗くなってからでは遅い
夕暮れの事故が怖いのは、危なさが目に見える形でやってこないところです。空はまだ明るく、道も見えている。その「見えている気がする」時間に、ドライバーからは歩行者が見えにくくなり、歩行者からは車のスピードや距離がつかみにくくなっています。
これから年末にかけて、日の入りは毎日少しずつ早くなっていきます。今日の帰り道、空がオレンジ色に染まりはじめたら、それが合図です。「まだ大丈夫」と思ったその瞬間に、ライトのスイッチに手を伸ばしてみてください。
情報源
- 警察庁「薄暮時間帯における交通事故防止」 npa.go.jp
- 内閣府「令和元年版交通安全白書」特集「薄暮時間帯の交通事故防止について」 cao.go.jp
- 北海道警察「薄暮時間帯(10〜12月)の交通事故実態について(過去5か年死亡・重傷事故)」 police.pref.hokkaido.lg.jp
- JAF Mate Online「冬場の日没前後は魔の時間帯…予期せぬ事故に要注意」 jafmate.jp
- 東京海上日動「薄暮時間帯の安全走行」 tokiomarine-nichido.co.jp
- 国立天文台暦計算室「令和8年(2026)暦要項 東京の日出入」 eco.mtk.nao.ac.jp
- JAF「夜の外出、その色の服装で大丈夫? 夜間、歩行者の服装の色や反射材の有無によるドライバーの視認性を検証」 jaf.or.jp
- Merkmal「夜間の服装、クルマが認識しづらい色は? 8色で調査、最大2.5倍の差が付く結果に」 merkmal-biz.jp
- くるまのニュース「どんどん暗くなるけれど ドライバー目線で『目立つ歩行者』の服装とは?」 kuruma-news.jp
- JAF「9月21日(月)~30日(水)は秋の全国交通安全運動週間です。」 jaf.or.jp

