
「高速に乗って1時間、後ろの席から『気持ち悪い……』」——子どもを乗せた長距離ドライブで、いちばん予定を狂わせるのが車酔いです。車酔いは、車に乗ってから頑張って防ぐものというより、前の晩の睡眠や出発前の食事、乗っている間に何を見ているかで、起こりやすさが変わります。この記事では、耳鼻科医・小児科医の監修記事と米国CDC(疾病対策センター)の解説をもとに、子どもが酔いやすい理由と、出発前・走行中・休憩のときにできることを整理します。帰省や旅行で長い距離を走る前の準備に使ってください。
酔いやすいのは2〜12歳ごろ、ピークは小学生
CDCの解説では、2歳未満の子どもはふつう乗り物酔いをしにくく、その後は酔いやすさが上がって7〜12歳ごろにピークを迎え、大人になるにつれて下がっていくとされています。日本の小児科医の監修記事でも、脳の発達が進む2〜3歳ごろから起こる可能性があり、12歳ぐらいまでの子どもに多いと説明されています。
| 年齢の目安 | 酔いやすさ | 考えておきたいこと |
|---|---|---|
| 2歳未満 | ふつうは酔いにくい | 酔いよりも、授乳・おむつ替え・ぐずりに合わせた休憩が中心 |
| 2〜6歳ごろ | 酔い始める子が出てくる | 「気持ち悪い」をうまく言えないことがある。顔色や口数の変化に気づけるようにしておく |
| 7〜12歳ごろ | いちばん酔いやすい時期 | ゲームや動画を見たがる年ごろ。画面との付き合い方が大きく効く |
| 中学生以降 | だんだん酔いにくくなる | 個人差は大きい。酔いやすい子は小学生のころと同じ対策を続ける |
※年齢の区切りはCDCの解説と小児科医の監修記事をもとにした目安で、個人差があります。
JAFの機関誌「JAF Mate」の記事で監修した耳鼻科医は、子どもが酔いやすい理由として、体のバランスをつかさどる脳の部分(前庭小脳)がまだ完成していないことを挙げ、20歳ごろに完成すると症状が出にくくなると説明しています。
酔う仕組みは「目と耳の食い違い」
CDCは、乗り物酔いのいちばん有力な説明として、耳の奥で感じる揺れ、目に見えるもの、体で感じる動きが食い違ったときに起こる、という考え方を紹介しています。たとえば、耳の奥は車の揺れを感じているのに、目は止まったままの車内や手元の画面を見ている。この食い違いを、脳がうまく処理できなくなるのです。
運転している大人が酔いにくいのも、同じ理屈で説明できます。JAF Mateの記事では、運転する人は次の動きを予測できるため酔いにくいとされています。ハンドルを切る前に、体がカーブに備えているからです。後ろの席の子どもは、次にいつ曲がるのか、いつ止まるのかが分かりません。
運転席の大人は酔わないのに、後ろの子どもだけが酔う。それは、子どもの側にだけ「次の動きが見えていない」からです。
出発前の晩と朝にできること
JAF Mateの記事では、車酔いの原因として、揺れや目への刺激のほかに、空腹や満腹、睡眠不足による自律神経の乱れ、車内の不快なにおい、以前に酔ったときの不安などの気持ちの面も挙げています。どれも、車に乗る前に手を打てるものです。
| いつ | やること | 理由 |
|---|---|---|
| 前の晩 | 夜ふかしさせず、いつもどおり眠らせる | 睡眠不足は酔いやすさを高める(JAF Mate・小児科医の記事・CDCが共通して指摘) |
| 前の晩 | 車内を掃除し、食べこぼしや強い香りの芳香剤のにおいを減らす | においは酔いのきっかけになる |
| 出発前 | おなかを空にも満腹にもしない。軽めに食べさせる | 空腹・満腹のどちらも酔いやすくなる |
| 出発前 | 酔い止めを使うなら、乗る前に(製品の用法に従う) | 酔ってからでは飲みにくく、効き始めるまで時間がかかる |
| 出発前 | 「また酔うかも」と何度も言わない | 以前に酔った経験の不安も酔いにつながる |
米国の医療機関メイヨー・クリニックの解説では、子どもが昼寝をするなら、昼寝の時間に移動するとよいとされています。長く走る区間を、ふだんの昼寝の時間に重ねられないか、出発時刻を考えてみるのも一つの方法です。
走っている間は「どこを見ているか」がいちばん効く
「動画を見せておけば、おとなしくしてくれるのに……」
長い移動で、タブレットやゲームに頼りたくなる気持ちは自然です。ただ、小児科医の監修記事は、動く車内で本やゲーム、画面を見つめると逆効果になりやすいとしています。CDCも、読書や細かいものを目で追うことを避け、遠くの地平線のような目印を見ることを勧めています。手元の画面を見つめると、目は「止まっている」と感じ、耳は「揺れている」と感じる。さきほどの食い違いが、いちばん大きくなる見方だからです。
代わりにできることとしては、窓の外の景色を見る、会話をする、しりとりなどの声だけの遊びをする、音楽を聞く、といった方法が紹介されています。外の景色から話題を広げる(すれ違う車の色を当てる、など)のも、視線を自然に遠くへ向けられる方法です。
席については、小児科医の監修記事が、車内しか見えない席より、進行方向の景色が見える席を選ぶよう勧めています。小さい子はチャイルドシートで後ろの席に乗ることが多く、選べる幅は限られますが、窓の日よけで外がまったく見えなくなっていないか、前の席の背もたれで前方がふさがっていないかは見直せます。
車内の空気も大事です。窓を少し開けたり、エアコンで涼しめにしたりして、顔に新しい空気が当たるようにするのが効果的とされています。暖房の効いた冬の車内は、暑さとこもったにおいで酔いやすくなりがちです。
運転する側にできることもあります。急な加速やブレーキ、カーブでの大きな揺れが減れば、子どもの耳が感じる揺れも小さくなります。雪道でなくても「急」のつく操作を減らす運転は、後ろの席にとってそのまま酔い対策になります。
休憩は「子どもの時計」で考える
大人だけのドライブなら、休憩の目安は「2時間に1回」がよく知られています。JAF Mateの記事でも、JAF会員アンケートで最も多かったのは「2時間に1回」で、監修した交通心理学の専門家は、疲れを感じてから休むのではなく、疲れる前に休むことが大切だとしています。
子どもを乗せているときは、この「疲れる前に」を、子どもの側にも当てはめて考えるのがおすすめです。酔いやすい子なら、気持ち悪くなってから止まるより、少し早めに車を降りて外の空気を吸わせるほうが、結果的に到着が早くなることもあります。
| 休み方 | 休憩の回数 | 休憩込みの所要時間 |
|---|---|---|
| 休まず走る | 0回 | 約3時間45分 |
| 2時間ごとに15分 | 1回 | 約4時間 |
| 90分ごとに15分 | 2回 | 約4時間15分 |
※計算例:高速道路で片道300km、平均時速80km(休憩を除いた走行時間 300÷80=3.75時間=約3時間45分)、休憩は1回15分と仮定した場合。90分ごとの場合は、出発から1時間30分後と3時間後の2回。実際の所要時間は渋滞や道路状況、休憩の長さで大きく変わります。
この仮定では、休憩を1回増やしても、到着が遅れるのは15分ほどです。途中で子どもが吐いてしまい、路肩や出口を探して着替えや車内の掃除をすることを考えれば、早めの休憩は「遠回り」ではありません。
高速道路のサービスエリアについては、NEXCO各社などが2018年に、商業施設のあるすべてのSAで、24時間使えるベビーコーナー、妊産婦向けの屋根付き優先駐車スペース、おむつの小分け販売、施設情報の提供を整える方針を発表しています。おむつ替えや授乳の場所が必要な年齢なら、出発前に各社のサイトで、どのSA・PAに何があるかを確かめて、休む場所を決めておくと安心です。休憩の間隔そのものの考え方は、長距離ドライブの休憩の記事で詳しく整理しています。
酔ってしまったら
JAF Mateの記事は、酔ったらサービスエリアやパーキングエリアなど安全な場所に止めて、落ち着くまで休むこと、きつい服をゆるめること、音を小さくして刺激を減らすこと、窓を開けたり冷房を効かせたりして涼しくすることを勧めています。目を閉じるより、一点を見つめるほうが気分の悪さが早く落ち着くとも書いています。
小児科医の監修記事も、できれば車を降りて、服をゆるめ、水分をとり、横になって休むこと、降りられないときは楽な姿勢で遠くの景色を眺めることを挙げています。高速道路の上では、すぐに止まれないこともあります。そのときに慌てないよう、エチケット袋(吐いたときの袋)、着替え、タオル、ウェットティッシュ、飲み物を、子どもの手が届く場所か助手席側にまとめておくと、片づけまでの時間がぐっと短くなります。
酔い止めの薬を使うなら
市販の酔い止めには、3歳から飲めるものもあると小児科医の監修記事は紹介しています。ただし、使える年齢や量、飲むタイミングは製品ごとに違います。CDCは、子どもへの酔い止めの薬は慎重に使い、まずは薬以外の対策を試すべきだとしており、小さな子どもに眠くなる成分を多く使いすぎることの危険にも触れています。
使う場合は、対象年齢と量を必ず守り、迷ったら薬局の薬剤師やかかりつけの医師に相談しましょう。JAF Mateの記事でも、酔い止めは乗る前に飲むこと、心配なときは事前に医師に相談することが勧められています。毎回ひどく酔う、ふだんの生活でもめまいがある、といった場合も、一度医師に相談しておくと安心です。
子どもの年齢・タイプ別の考え方
2〜3歳の小さな子
「気持ち悪い」と言えず、急に吐いてしまうことがあります。顔色が悪い、急に静かになった、あくびが増えた、といった変化に気づけるよう、助手席や隣の席から様子が見えるようにしておくと安心です。お昼寝の時間に合わせて走る時間を組むのも、この年齢では特に使いやすい方法です。
動画やゲームを見たがる小学生
いちばん酔いやすい年齢と、画面を見たい年齢が重なります。全部やめさせるのは難しいので、「高速道路で揺れが少ない区間だけ」「休憩のときに見る」などのように場面を分け、山道やカーブの多い道では外を見る遊びに切り替えると、取り入れやすくなります。
以前に車で吐いたことがある子
「また酔うかも」という不安そのものが、酔いのきっかけになります。家族が「酔いやすいね」と繰り返さず、「気持ち悪くなったらすぐ止まるから大丈夫」と、止まれることを先に伝えておくほうが安心につながります。出発前の睡眠・食事・においの準備を、ほかの子よりていねいにしておきたいタイプです。
片道4〜5時間以上の帰省
子どもの酔いに加えて、運転する大人の疲れも大きくなります。早めの休憩を前提に、到着時刻に余裕を持たせて計画しましょう。途中で運転を交代できる大人がいるなら、休憩のたびに交代するのも一つの方法です。混み合う時期は、SA・PAが満車で入れないこともあるので、休む候補を手前と先の2か所決めておくと慌てずに済みます。
車酔いは「乗る前」と「見る先」で減らせる
子どもの車酔いは、体質だけで決まるものではありません。よく眠って、軽く食べて、においの少ない車に乗り、手元ではなく窓の外を見る。そして、気持ち悪くなる前に止まる。どれも特別な道具はいりません。次の長い移動の前の晩、まずは早めに寝かせるところから始めてみてください。
情報源
- CDC Yellow Book「Motion Sickness」 cdc.gov
- JAF Mate「車酔いの原因と対策」(監修:川越耳科学クリニック院長 坂田英明氏) jafmate.jp
- HugKum「子どもの車酔い」(監修:金井内科医院院長・小児科医 金井正樹氏) hugkum.sho.jp
- 乗りものニュース「鍵はストレス? 子どもの乗りもの酔いを避けるには」 trafficnews.jp
- Mayo Clinic「Car sickness in children: Can I prevent it?」 mayoclinic.org
- JAF Mate「長距離ドライブは『疲れる前に休む』が正解! SA・PAでの休憩術」 jafmate.jp
- NEXCO東日本「サービスエリアにおける子育て応援施設の整備について」(2018年9月28日) e-nexco.co.jp

