
「ナットはしっかり締めたし、あとは走るだけ」――自分で冬タイヤに履き替えたとき、多くの人の作業はここで終わります。ところが、タイヤの脱落事故の統計を見ると、事故が集中しているのは作業の直後ではなく「作業から1か月以内」です。この記事では、国土交通省が2026年9月に公表した最新のデータをもとに、冬タイヤの交換を自分でするときの締め方と、交換後に忘れられがちな「増し締め」の考え方をまとめます。
先に結論:作業は「締める→走る→締め直す」までがひと続き
| 段階 | やること | よくある失敗 |
|---|---|---|
| 準備 | 固く平らな場所、パーキングブレーキ、輪止め。ジャッキは取扱説明書の指定位置に | 傾いた場所や柔らかい地面で上げる |
| 付ける前 | ホイールの接触面、ボルト・ナットの汚れやさびを拭き取る | 夏のあいだに付いた汚れ・さびをそのままにする |
| 締める | 手で仮締め→車を下ろす→対角の順に2〜3回に分けて、指定のトルクで本締め | 1本ずつ全力で締める、レンチを足で踏む |
| 走ったあと | 50〜100kmほど走ったら、トルクレンチで締め付けを確認(増し締め) | 締めた日で作業を終わりにする |
※出典:トヨタの取扱説明書・FAQ、タイヤメーカー(コンチネンタル)、ベストカーWebの解説をもとに編集部で整理。手順やトルクは車種で違うため、必ず自分の車の取扱説明書で確認してください。
ジャッキを上げてタイヤを付け替える作業そのものは、取扱説明書を見ながらなら多くの人ができます。見落とされやすいのは最後の段です。
ナットは「締めた瞬間」がいちばん固く、走るうちに少しずつ落ち着いていきます。だから、締め直すところまでが交換作業です。
脱輪事故は「11〜1月」と「作業後1か月以内」に集中している
国土交通省は毎年、大型車(車両総重量8トン以上、または乗車定員30人以上)の車輪脱落事故をまとめています。2026年9月に公表された令和7年度(2025年4月〜2026年3月)の資料によると、件数は128件で、前の年度の120件から8件増えました。うち3件は人身事故で、3人がけがをしています。
注目したいのは、いつ起きたかです。
| 見方 | 件数 | 全体(128件)に占める割合 |
|---|---|---|
| 2025年11月〜2026年1月の3か月 | 64件(20+23+21) | 約50% |
| タイヤの脱着作業から1か月以内 | 69件 | 約54% |
| タイヤ交換などの作業のあと | ― | 約85% |
※出典:国土交通省 物流・自動車局「令和7年度大型車の車輪脱落事故発生状況と傾向分析について」(2026年9月)。3か月の合計は資料の月別件数から編集部で計算。
1年のうち4分の1にあたる3か月に、事故の半分が集まっています。月平均にすると、11〜1月は約21件、それ以外の9か月は約7件(64÷3≒21.3、64÷9≒7.1。編集部の計算)。冬の3か月は、ほかの季節の約3倍のペースです。ちょうど冬タイヤへの履き替えが集中する時期と重なります。
事故を起こした車を国が調べた結果では、ナットの締め付けの管理が不十分だったもの、部品のさびや汚れの確認・清掃が不十分だったもの、そして交換後の増し締めをしていなかったものが目立ったとしています。作業した人の内訳は、車の使用者自身が約56%、タイヤ専門店が約27%、整備事業者が約13%でした。
これは大型トラック・バスの統計で、乗用車について同じ規模の全国統計は見当たりません。ただ、ナットで車輪を留めるという仕組みは同じで、乗用車のタイヤメーカーや整備の解説も、交換後の増し締めを同じように勧めています。「トラックの話」と切り離さず、冬の作業のクセを知る材料として読むのがよさそうです。
締め方:対角に2〜3回、仕上げは決められた力で
トヨタのシエンタの取扱説明書では、取り付けの手順を次のように示しています。
- ホイールの接触面の汚れを拭き取る(汚れていると走行中にナットがゆるみ、タイヤが外れるおそれがある)
- タイヤを付け、ナットを手で仮締めする
- 車体を下げる
- ホイールナットレンチで、図の番号順(対角の順)に2、3回しっかり締め付ける。締め付けトルクは103N・m
同じ取扱説明書は、タイヤを交換したあとは速やかに締め付けトルクを確認し、自分で確認できない場合は販売店で点検を受けるよう求めています。トヨタのFAQも、対角の順に2〜3回に分けて締め、最後に取扱説明書のトルクで締めるよう案内し、レンチを足で踏んで使わないよう注意しています。
103N・mは、あくまでこの車種の値です。締め付けトルクは車種やホイールによって違うので、自分の車の取扱説明書の「タイヤ交換」のページで数字を確かめてください。
「103N・m」は、どれくらいの力?
数字だけではピンとこないので、身近な力に置き換えてみます(編集部の計算、重力加速度を9.8として概算)。
| 場面 | ナットにかかる力(目安) |
|---|---|
| 長さ40cmのレンチの先を、約26kgの力で押す | 約103N・m(指定値と同じくらい) |
| 体重60kgの人が、40cmのレンチの先に乗る | 約235N・m(指定値の2倍以上) |
※26kg×9.8×0.4m≒102N・m、60kg×9.8×0.4m≒235N・m。実際の力のかかり方は角度などで変わります。
「緩むのが怖いから、思い切り踏んで締めておこう」という気持ちは自然ですが、体重をかけると簡単に指定値の2倍を超えます。締めすぎは、ボルトが伸びたり折れたり、ネジ山を傷めたりする原因になると、整備の解説でも指摘されています。逆に、手の感覚だけで締めると足りないこともあります。強く締めることより、決められた力で締めることが大事なので、トルクレンチがあると確実です。持っていなければ、仕上げの確認だけでも店に頼むという手があります。
トラックは「油を塗れ」、乗用車は「塗るな」――どちらが正しい?
「さびて固くなったナットには、油を差したほうがいいのでは?」
ここは混乱しやすいところです。国の脱輪事故の資料では、「潤滑剤の塗布が不適切」なことが原因の一つに数えられていて、ナットに油分が付いていなかった事故車の写真も載っています。大型車の世界では、指示された場所に潤滑剤を塗ってから締めるのが前提になっているからです。
一方、トヨタのシエンタの取扱説明書には、「ナットのねじ部にオイルやグリースを塗らない」とはっきり書かれています。理由は、塗ると過度に締め付けられて、ボルトの破損やホイールの損傷につながるおそれがあるから。付いている場合は拭き取るよう求めています。
一見正反対ですが、矛盾しているわけではありません。油があるかないかで、同じ力で回したときの締まり具合が変わります。だから、その車の決められたトルクが「油あり」を前提にしているのか「油なし」を前提にしているのかで、正解が逆になるのです。トラックの解説を見て乗用車のナットに油を差すと、レンチの数字は同じでも、実際には締めすぎになるおそれがあります。
結局、従うべきなのは一般論ではなく、自分の車の取扱説明書です。乗用車のさびや汚れは、油を差すのではなく拭き取って落とすのが基本と考えておきましょう。
増し締めは「50〜100km走ったら」
タイヤメーカーのコンチネンタルは、タイヤ交換後50〜100kmを目安に走った車に増し締めのサービスをしていると説明しています。ベストカーWebの解説も、交換後50〜100km走ったところでトルクレンチを使って増し締めするよう勧めています。
理由は、走っているあいだの重さ、回転、温度の変化、段差の衝撃などで、ナットやホイールの当たり面が少しずつなじみ、締め付けがゆるむことがあるからです。ナットとホイールのあいだに砂やさびが挟まっていると、締めたときは固く感じても、実際には正しく締まっていない「見せかけの固さ」になることもあるといいます。
50〜100kmは、片道10kmの通勤なら2.5〜5日分(往復20km/日として、編集部の計算)。交換した週の週末には、ちょうど確認どきが来るくらいの距離です。
国の資料に載っている事故の例は、この「最初の数週間」の大切さを物語っています。
- 冬用タイヤに交換し、増し締めをしないまま12日間・約2,300km走ったところで、交差点で左後ろの車輪が脱落(推定要因:給脂不足、さびの清掃不足、増し締め未実施)
- 冬用タイヤに交換し、増し締めをしないまま22日間・約1,800km走ったところで、赤信号で減速したときに車輪が脱落
- 増し締めはしていたが、27日・約1,000km走ったところで高速道路で脱落(推定要因:給脂不足とさびの除去不足)
※いずれも大型車の事例。出典:国土交通省(2026年9月)。
3つめの例は、増し締めさえすれば大丈夫、というわけではないことも示しています。付ける前の清掃と、決められた力で締めること。最初の2つの段が雑だと、最後の段だけでは取り返せません。
ジャッキアップで気をつけたいこと
締め方の前に、車を持ち上げる段階にも危険があります。トヨタの取扱説明書は、次のような点を挙げています。
- 地面が固く平らな、安全な場所で作業する
- パーキングブレーキをかけ、輪止めをする(トヨタのFAQでは、外すタイヤの対角の位置に)
- ジャッキは指定の位置にかけ、タイヤ交換に必要な高さ以上に上げない
- ジャッキで支えた車の下に体を入れない(もぐる作業ではジャッキスタンドを使う)
- 人を乗せたまま持ち上げない
- ナットは、車を上げる前に約1回転ゆるめておき、外すのはタイヤが少し浮いてから
- 走った直後は、ホイールやブレーキのまわりが熱くなっているので触れない
車載のジャッキは、もともとパンクしたときの応急用です。夏冬で4本を替える作業を毎年するなら、作業のしやすさや安全のために、自分に合った道具を見直してみるのも一つの考え方です。
店に頼んでも、増し締めは自分ごと
国の統計では、脱輪事故のうち約4割(タイヤ専門店27%、整備事業者13%)は、プロが作業した車でした。どこで作業したかに関係なく、交換後しばらくのあいだに締め付けを確かめることには意味があります。
店で交換した場合は、増し締めを無料で受けられるかどうかを聞いておくと安心です。店に頼むか、ホイールごと買って自分で付け替えるかの費用の比べ方は、冬タイヤはホイールごと買う? 組み換えで済ませる?で詳しく計算しています。交換の時期の目安は冬タイヤへの交換はいつがいい?をどうぞ。
増し締めのついでに、空気圧も見ておきましょう。半年しまっておいたタイヤは空気が抜けていることがあり、秋冬は気温が下がる分、さらに低めになりがちです(詳しくはタイヤの空気圧は月1回でいい?)。
あなたはどうする? 4つのケース
今年はじめて自分で替える人
作業の前に、取扱説明書の「タイヤ交換」のページで、ジャッキの位置と締め付けトルクを確認しておきましょう。トルクレンチがなければ、作業は自分でして、仕上げの確認と増し締めだけ店やガソリンスタンドに相談するのも現実的です。最初の年は、1本目に時間がかかって当然と考えて、時間に余裕のある日を選んでください。
毎年自分で替えている人
慣れているほど、増し締めを省きがちです。締めた日にナットへ印を付けておき、50〜100km走った週末に、トルクレンチで確認する――を毎年の決まりにしてしまうと忘れません。ボルトやナットのねじ山に傷みがないかも、ついでに見ておきましょう。
店に任せている人
作業そのものの心配は減りますが、交換後に異音や振動を感じたら、すぐに店に相談を。トヨタのFAQも、交換後に普段と違う音がするなど異常を感じたら、すぐに販売店に相談するよう案内しています。増し締めのサービスがあるかは、予約のときに聞いておくと二度手間になりません。
雪の多い地域で、交換後すぐ長い距離を走る人
国の統計では、北海道・東北・北陸信越の大型車で脱輪事故の割合が高くなっています。帰省や雪山に向けて替えたその足で何百kmも走るなら、50〜100kmのところで一度止まって確かめる、または交換を前の週に済ませて、遠出の前に増し締めを終えておく段取りが安心です。
タイヤの交換は、ナットを締めた日では終わりません。
締めた日から50km先に、もう一度だけ車を止める。その1回が、冬のあいだずっと車輪を守ってくれます。
情報源
- 国土交通省 物流・自動車局「令和7年度大型車の車輪脱落事故発生状況と傾向分析について」(2026年9月) mlit.go.jp
- トヨタ シエンタ(ハイブリッド車)取扱説明書「タイヤを交換するには」 manual.toyota.jp
- トヨタ よくあるご質問「自分でタイヤ交換を行うにはどうしたらいいですか?」 toyota.jp
- コンチネンタルタイヤ「タイヤの点検・メンテナンス方法(ホイールナットの増し締め)」 continental-tires.com
- ベストカーWeb「スタッドレス脱いだ瞬間が分かれ道!! 春の走りを決めるタイヤ交換後にすべきこと」(2026年3月) bestcarweb.jp
- くるまのニュース「自分で『タイヤ交換』ホイールナットの締めすぎNG!」(2023年11月) kuruma-news.jp

